繰り返されるBIブーム、期待と幻滅を超えて
BIについてはこれまで何度もブームと呼ばれる時代があった。古くは経営意思決定システム(DSS)と呼ばれ、その後2000年代にもブームとなる。ここ数年は「ビッグデータ」ブーム、直近ではAIやIoTという動向の中でデータ分析がその本質とみなされその重要性が語られる。
このように考えると、BIとデータ分析のブームは常に繰り返されている。そしてブームのたびにBIに対する期待が持たれその後ビジネス成果への幻滅が語られてきた。
実際は成果が無かったのではなく、BIが経営のノウハウに関わるため表に出てこなかったという事情がある。こうしたこともあり、ビジネス部門にとっては、BIはわかりづらく遠いものという意識があった。
もうひとつ、ビジネス部門がBIに躊躇する理由としては、BIを行おうとすると情報システムなどのIT部門への「お伺い」を立てなければならなかったことだ。その背景としては、企業が保有するデータを分析しようとすると、蓄積するデータベースからデータを抽出し、分析のための貯蔵庫(DWH:データウェアハウス)に入れるなどの作業が必要で、それには膨大な費用や専門家が必要とみなされていたからだ。
こうした背景もありビジネス部門、事業開発やマーケティング、経営企画などの部門は、企業の基幹システムから抽出したデータを、Excelなどで分析してきた。Excelは強力なツールで相関分析、クロス集計などから比較的高度な分析まで可能だし、何よりその柔軟性が魅力だ。しかしデータが数千、数万行になると処理が重くなってしまう。Excelよりもデータ処理に優れた方法で、かつデータの視覚化もより効果的におこないたい、しかも専門家やIT部門に頼ることなく手元で動かしながら分析をおこないたい -- こうしたビジネス部門のニーズから浸透してきたのが「セルフサービスBI」だ。
すべてのBIソフトは無料化する
こうしたセルフサービスBIや、AI技術を応用したクラウド型のデータ分析サービスの普及によって、高価だったBIツールは今後ますます安価になっていくと、ガートナー社はいう。5月24・25日に開催されたイベント『ガートナー ビジネス・インテリジェンス、アナリティクス&情報活用 サミット 2016』で、ガートナーは「2017年までに、実質的にすべての分析ソフトウェアは、無償または低価格の概念実証から始まるようになる」とその知見を発表した。
セルフサービスBIといえども本格的に導入するとなると、ある程度の予算が必要となる。とはいえパッケージもWebサービスも、試用バージョンでほとんど活用できる。
ガートナーは、「このような動きは、今後加速度的に広まり、データから得たいと考えることを、ビジネス部門のユーザーが自身の手で迅速かつ柔軟に得られる局面も広がる」という。
市民データサイエンティストの時代
先のガートナーのイベントでは、こうした時代の分析をおこなう人材として、「市民データサイエンティスト」(Citizen Data Scientist)という新たな職能像が紹介された。「市民データサイエンティスト」は、ひところ語られた統計や高度な分析やITスキルを兼ね備えた「データサイエンティスト」ではなく、セルフサービスBIなどを使いこなす一般のビジネスパーソン、クリエーター、営業、セールスパーソンなどを含むユーザーだという。
ビジネス部門でのIT導入は「シャドーIT」と呼ばれ、会社の情報管理、IT統制の面から見れば問題視されることが多い。先のガートナーのイベントでは、シャドーITのメンバーを「市民データサイエンティスト」に導くことが大切だと言うセッションも行なわれた。
散財するデータに注意を
ビジネス部門主導のデータ分析や活用が進むことによって起きる問題は、データが散在していくことだという。ガートナーのリサーチ部門 マネージング バイス プレジデントの堀内 秀明氏はこう述べる。
「IT部門が場当たり的にデータを提供していくことになり、さらにクラウドを利用することが多くなると考えられるため、データの散在に拍車が掛かります。その結果、部門最適の戦術的な判断が高度化していく一方、全社最適の視点での戦略的な判断に適したデータを入手することが困難になります」
こうした問題を踏まえて、堀内氏は「セルフサービス型のBIであってもユーザー任せにするのではなく、データ・アクセス環境の整備やデータ活用に関するトレーニングおこなうべき。複数の部門間で類似した取り組みや、データ処理の重複を検知した場合は、IT部門が巻き取ることも含めて取り組むべき」 と語る。
ガートナーはセルフサービスBIの時代でも、IT部門の役割は重要と位置づける。とはいえ、今後のデータの分析や活用は、経営企画、事業企画、マーケティングや営業といったビジネス部門が主導することになるだろう。