人間の未来の仕事に影響する「3つの競争」
池見氏は、技術が圧倒的に進化する背景があるなか、私たちの雇用は大きく3つの要因から変化していくと語る。
テクノロジー(機械)との競争
1つ目は、技術の進化による「機械と人間の競争」だ。2013年に出版された、アメリカの経済学者エリック・ブリニョルフソン著『機械との競争』では、新しい技術が人間の雇用を奪う「技術的失業」が紹介されている。技術の進化は一人一人の労働生産性を上げ、産業革命時代から比較すると80倍もの成果を上げている。その一方で、私たちは、産業革命の時代から常に技術と戦ってきた。紡績機械が世に生まれた当初は、ラッダイト運動が起こり人々は自分の雇用を奪った機械を壊した。こうした新しい技術に対する人々の抵抗は、いつの時代においても一時的には起き、そしてすぐに収束する。
今話題の自動運転車やドローンもその最たるものだ。人々は最初こそ抵抗を示すものの、時が経つにつれて、それを欲するようになっていく。池見氏は、「人々が想像したものが実現するスピードが上がってきており、それを受け入れる人間の心境の変化も急速に起きている」と語る。
今後サービス職から専門職まで、幅広い分野において、ロボットなどの技術は応用されていくだろう。製造業ではすでに生産ラインにロボットが導入され、人員を大幅に削減する企業も増えている。現代に存在する仕事に限って言うのであれば、将来的にロボットに置き換えられる職業は、OECDは全体の9%、アメリカ労働統計局は20%、野村総合研究所は49%と、数値に差こそあれ、世界的にもその労働が機械に代替されることが発表されている。既存の仕事はロボットや人工知能に代替される可能性が高く、人間は新しく生まれる仕事に従事していく可能性が高くなる。
グローバルとの競争
2つ目に、2012年に出版された渡邉正裕氏の著書『10年後に食える仕事・食えない仕事』という書籍では、グローバル化による競争が語られている。グローバリゼーションが進むことで、日本人は国外から流入してくる安価な労働力と競争していかなくてはならない。著者は、グローバル化という観点から、今後優位性が高まるスキルを論じ、グローバル化と巨大な日本市場を意識したキャリア形成が重要であると説いている。
延命技術の発展による“世代間競争”?
3つ目は長寿命化だ。レイ・カーツワイル氏の著書『ポスト・ヒューマン誕生』では、GNR革命(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)が起き、人間の寿命が延びていく未来が語られている。また、経営学者であるピーター・ドラッカー氏は、現代の職業生活に起きた一番の変化は「寿命が延びること」であると語っている。今から100年前、平均寿命は42歳だったが現在は2倍の84歳になっている。この状況のなかで、仮にシンギュラリティが訪れ、延命技術が進んだ場合、私たちの寿命はますます延び、容姿と年齢に相違が生まれてくるだろう。
寿命が延びる未来において、私たちはサービスの計算式を見直す必要がある。例えば、保険は平均寿命を80歳で設定しているが、それでは成り立たなくなってくる。社会保険も同じだ。現在、定年退職後に必要な資金は3,685万円と言われているが、寿命が延びるとこの金額では当然足りない。平均年齢が上がるということは、国からの援助のみで全てを賄うのは難しくなるということだ。つまり、雇用年齢が引き上げられ、70歳になっても働く時代は間違いなく訪れる。
つまり、私たちを待ち受ける未来では、既存制度が大きく変革され、ロボットなどの科学技術だけでなく、海外から流入してきた人材との競争も起こり得ることが予測され、長寿命化が予測される社会では、60歳代以上の労働者と現役世代間で、仕事を奪い合う可能性も否定できないと言えるだろう。
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