組織開発とは何か
――最近、HRテックなど組織や人材に関連する新しい動きがあって、そうした中で組織開発という言葉に接する機会が増えてきました。この分野の研究と実践に取り組んでいる中村先生に、組織開発とは何かというお話を伺えればと思います。
組織開発(Organization Development)は、アメリカで1950年代終盤から生まれた考え方で、略してODと呼ばれています。「O=組織」という言葉は誰もがイメージできますが、それに「D=開発」が伴うとわかりづらいですよね。人がソフトウェアやモノを開発するのと同じように、コンサルタントが未成熟な組織を開発していくという意味で捉えられるかもしれませんが、本来「開発=development」は「発達」や「成長」の意味なのです。人の発達や成長を育くみ、チームや組織の関係性や人間的な側面を育てていくというのが、組織開発のイメージです。
企業の中で人間関係が大事だということに異を唱える経営者はいません。しかし、一方で「会社は仲良しごっこをする場ではない」と言われる経営者も多く、「人間関係=仲良し」と捉えてしまうようです。人間関係よりも業績を上げることが重要だと。
ところが、関係性と業績はつながっていて、別々のものではありません。一人ひとりがPCなどで自分だけの仕事に向きあう「個業化」が進んでくると、個人戦で勝負をするような方向にどんどん進んでいってしまう。その状況を乗り越えて、団体戦で勝負できるような職場に変えて、協働できる関係性を育んでいこうというのが、組織開発の考え方の基本です。業績に直結するような取り組みだけではなく、「関係性を高める」というアプローチを行います。そうすれば業績などの結果は、後からついてくるという考え方です。
同質性を前提とした日本の組織と関係づくり
−−以前は日本的経営と呼ばれ成長期にはその点が評価され、やがてその限界が指摘されてきました。人間関係や集団性については、欧米よりも日本の方が傾向として強かったと思いますが。
そうでしたね。80年代までは終身雇用の考え方があったので、関係性を大事にするという風土がありましたが、それは「同質性の高さ」が前提でした。職場は男性が中心で仕事第一主義という考え方が共通にあり、チームワークが発揮されていました。これからの時代は、同質性ではなく、多様性が高まってきています。社員が人生で何を大切にするかとい言う考え方も多様になってきていますし、雇用形態も多様になってきます。女性の仕事も増えて、外国人の仕事も増えてくるという時代になります。
今後はそうした多様性の中でチーム力を高めていかなければいけない。かつての日本は、同質性の中で上司が目標を与えそれに対して部下が努力をするというものでしたが、これからは多様な中でチームをまとめるとことが問われてくる。これまでの日本のマネージャーが経験してこなかった、高度なマネジメント力が求められます。だからこそ今、組織開発が必要とされているのです。
――組織開発の考え方の源流は欧米でしょうか?
はい、組織開発の源流はアメリカやイギリスです。心理学をベースにしながら、組織論、経営学、社会学などの隣接領域で生まれてきた行動科学というものがベースです。ルーツはもともと組織心理学で、1940~50年代のからアメリカの官僚型組織が、どのようにポテンシャルを高めていくかという発想の中で生まれてきたものです。XY理論で有名なダグラス・マクレガーなどが代表的な組織開発の学者です。彼は『企業の人間的側面(The Human Side Of Enterprise)』という本を著し、企業の「人間的側面」が重要なマネジメントの課題であると指摘しました。また「プロセス・コンサルテーション」という考え方を提唱したエドガー・シャインや、「学習する組織」という理論を広めたピーター・センゲの師匠であるクリス・アージリスなどが組織開発のパイオニアたちです。