「知の探索」と「知の深化」をバランスよく行う、「両利きの経営」が新たなイノベーションを生み出す
毎回大きな反響を呼んでいる「Design×Management=Innovation」だが、その始まりは、まさに“ひょうたんからコマ”だったようだ。入山氏が米国のビジネススクールで助教授を務めていた頃に佐宗氏から突然連絡を受けた後、米国の入山氏の自宅に佐宗氏が訪問したことから始まる。日本に帰国後、編集担当者からBiz/Zineの連載を依頼された際に「佐宗さんと一緒なら」という条件で始めたのだという。そして、「イノベーションとクリエイティビティについての知の体系化」を目標に掲げ、毎回二人が気になるゲストを招いての鼎談という形式を取るようになった。
これまで登場したゲストは、ポジティブ心理学の第一人者であるミハイ・チクセントミハイ氏、日立製作所でウェアラブル技術やビッグデータ活用に取り組む矢野和男氏、世界的なデザインコンサルティング会社「IDEO」トム・ケリー氏、Yahoo!CSO安宅和人氏、メタップス佐藤航洋氏、曹洞宗の僧侶・藤田一照氏など錚々たる顔ぶれだ。入山氏は「今、最も“ぶっ飛んだ”対談だと自負している」と語り、「鼎談を通じて『イノベーション』『創造性』『デザイン』を語れるトップランナーには、明確な共通項があることを実感した。それは世界標準の経営学視点と符合する」と評した。
それでは、世界標準の経営学と符合する視点とはどのようなものか。入山氏は第一の視点について「イノベーションの本質が、知と知の組み合わせであること」と語る。
人間は何もないところから何かを生み出すことはできない。アイデアが生まれる時、必ず自分の頭の中から情報を得て役立てているはずというわけだ。この考え方は殊更新しいものではなく、80年も前からシュンペータが語る、知と知の組み合わせを意味する「new combinations=新結合」は、今もなおイノベーション研究では最も基本的な考え方となっている。
イノベーションを生み出す上で「知と知の組み合わせ」が重要と知りながらも、そこには人間の認知という限界がある。つまり、人は自分の知りうることのみを組み合わせ、結果として「知の近視眼化」に陥ってしまうというわけだ。これを回避するためには、自身から最も遠いところにある新たな知を探索し、自身の知と組み合わせてみることだ。それを経営学では「Exploration(知の探索)」と呼び、イノベーションの第一歩として重視している。
入山氏は例として、トヨタ生産システムが米国のスーパーマーケットのレジ精算にヒントを得て誕生したことを紹介。また、ツタヤも消費者金融の仕組みを見てレンタルビデオのビジネスを考え出し、一業界にまで成長した。
つまり、イノベーションには自身の知にまったく遠い知を探して結びつける「Exploration(知の探索)」が不可欠であり、さらに「新しいアイデア」をブラッシュアップし、実現していく「Exploitation(知の深化)」が必要というわけだ。この「知の探索」と「知の深化」を、あたかも両利きのようにバランスよく行える企業、経営者こそ、イノベーションの起点となる確率が高い。
しかし、人はどうしても探索に躊躇しがちだ。それは認知的な問題だけでなく、企業という短期間で収益を上げることを命題とされる組織において、確率の低い「知の探索」を行うより、手短なところで「知の深化」をするほうが効果的と信じられていることにある。入山氏は「短期的にはよいかもしれないが、中長期的にはコンピテンシー・トラップに陥り、イノベーションが枯渇してしまう恐れがある」と指摘する。
事実、「Design×Management=Innovation」に登場した全員が共通して「知の探索」に長けている。いずれも自身のドメインを限定せず、貪欲に様々な好奇心を羽ばたかせて知を探索し、それを自分たちの知と結びつけ、新たな発見を次々と行っている。
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