新モビリティ産業では40兆円の付加価値シフトが起こる
このように、2030年の自動車産業を展望すると、乗用車販売という面では「売れない、儲からない」時代になるというのが、デロイトトーマツの予測だ。しかし、クルマに関連するトータルなビジネスとして見た場合、次世代型のモビリティー産業が生まれ、イノベーションが生じる可能性があるという。
キーになるのは、ZEV (Zero Emission Vehicle)とSAV(Shared Autonomous Vehicle)だ。パワートレーンの多様化によって実現するゼロエミッション(ZEV)と、「クルマの知能化・IoT化」と「シェアリング」の組み合わせで実現する自律走行型モビリティー(SAV)という2つのコンセプトにより、新モビリティ社会が実現するというのだ。
クルマの電動化・知能化によって、より効率的で付加価値性の高いモビリティ産業が形成される。デロイト トーマツの試算によれば、「ZEV☓SAV」によってクルマの「利用」に関する市場には、現在の4兆円から約40兆円への付加価値シフトが生まれるという。
新モビリティビジネスの脅威と商機とは
ZEV☓SAVが実現した社会では、クルマは「公共財」になると予測される。将来的には、クルマはジェレミー・リフキンが提唱した「限界費用ゼロ」に近づき、結果として保有コスト(車両代、燃料代、駐車場代など)は激減する。さらに、日本の産業にとって大きな変化は、「ケイレツの崩壊」だ。2030年に、自動車産業のOEMやサプライヤーの競争力は低下していくと予測されるという。では、新モビリティ産業において、どのようなビジネスに商機があるのか?
クルマの知能化/IoT化は、多様なアフターサービスやデータ活用のビジネスを可能にする。例えば、可能性として「自動車保険」の市場がある。今後、中国やインドを核としたアジアでの自動車保険は拡大し、2030年時点では、アジアは大きな自動車保険市場になる。現在の自動車保険産業にテレマティクス保険が普及していき、その規模は世界で150兆円に達するという予測だ。また運転情報や運転行動情報などのビッグデータが保険産業に集約されることで、新たな保険プログラムが生まれると予測されている。
街からCDショップや書店が激減していったように、クルマの販売も同じように消えていくかもしれない。音楽業界のような急激な「破壊」ではないかもしれないが、じわじわと変化し、2030年には完全に様変わりしている。その危機感と、次世代のモビリティ産業が生まれることへの期待が、デロイト トーマツ コンサルティングによる本書のメッセージなのだろう。