「ものづくり」におけるデザインや設計にインパクトをもたらす、3つのテクノロジーとは?
続く基調講演には、米国オートデスク社 ワールドワイド・セールス・サービス担当の上級副社長であるスティーブ・ブラム氏が登場。「皆さんがどのように世界を変えていきたいと考えているのか、ぜひ事例を通じて考え、我々と共有いただきたい」と力強く語った。
世界を変える事例として、まずはディーン・トラバー氏の革新的な視覚治療が紹介された。彼は十代の時の事故で右目の視覚を失ったことをきっかけに子どもの目の治療に興味を持つようになり、大学をやめて資金を調達し、弱視の子どもたちのための新しい治療法を開発したという。バーチャルリアリティを用いたという「ニューロビジュアルケア」と呼ばれる新しい治療法は、眼帯をつけて過ごす、従来の負担の多い治療法に比べて20倍も早く効果が出ると報告されている。現在はボストン小児病院で治験を行いつつ、市場へのローンチに向け準備中だ。今年は既存のハードウェアを用いる予定だが、デザインやプロトタイプ作成にデジタルファブリケーション機器をクラウド上で使用し、次の段階ではオリジナルのカスタムヘッドセットを製造する予定だという。
ブラム氏は「ディーン氏は、会場の皆さん自身です。皆さんがマシンインテリジェンスに頼ることができるとしたら、どんなことができるのか考えてみてください。廃水処理や高層ビル、ビデオゲームやスポーツカーの設計・開発など、ありとあらゆるものの創造の場面で、市場に合わせた形で様々なプロトタイプを創り出し、それらを自在にテストできるとしたらどのような社会が到来するでしょう。今回はそうした既にスタートしている取り組みや人から、ぜひともインスピレーションを受けてほしいと思います」と呼びかけた。
ブラム氏は、デザインや設計などモノを作る場面においてインパクトをもたらすテクノロジーを3つに整理し、注目すべき各トレンドとして次のように紹介した。
1つ目の「プロダクション」では、ボーイングの機体製造におけるチタンパーツの3Dプリンターによる設計・製造を例に挙げた。そのパーツは3Dプリンターで印刷製造された構造部品として初めて連邦航空局に認められ、その活用で1機あたり300万ドルのコスト削減になるという。
この例が象徴するように、「デザインすること」はそのまま「製造すること」と同じになる。さらには、システムのアルゴリズムによっては、近いうちにボタンを押すだけで、デザインからエンジニアリング、シミュレーション、ファブリケーションに至るまでを自動的に行えるようになるだろう。工場はこうしたデジタルストリームのシグナルを受け取って自動的にモノを製造する場になるというわけだ。
2つ目は「コネクション」におけるトレンドについて紹介された。ビルや映画、車、高速道路に至るまで、すべてがお互いにつながり合い、同時にネットワークにもつながる社会が到来する。お互いに多くのデータをやりとりし、影響し合い、そこからかなりの「洞察」を得ることになる。それをフィードバックすることでネットワーク自身もさらに進化するという考え方だ。
そして、3つ目のトレンドが「マシンラーニング」だ。この進化によって「プロダクション」「コネクション」の2つの技術トレンドの進化が加速しているのは明らかだ。マシンラーニングやAI、そしてロボットなどによって、私たちのデザイン、製造の仕方が変わり、仕事の仕方も変わってくる。もしかすると自分の仕事がなくなるのではと危惧する人もいるかもしれないが、ブラム氏は「マシンは人間の仕事を強化し、お互いが協力し合うことで、よりスマートによりよい製品が生まれてくるはず」と前向きに語った。