久留米絣のAI活用がデータドリブンではなく、行動観察による「ニーズドリブン」だった理由

 AI(人工知能)のことを考えることは、「ヒトとは何か」を考えることだ。特にビジネスでAIを活用するためには、「ヒトのクリエイティビティとは何か」を考えることが必要になる。クリエイティビティ再考、今回は伝統産業の久留米絣(かすり)のみなさまと、国立研究開発法人である産業技術総合研究所 人工知能研究センター様とのAI技術活用の事例を紹介する。

[公開日]

[著] 安松 健 [語り手] 古賀 円 下川 強臓 西原 健太 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] AI・機械学習 事業開発 行動観察 顧客理解 ベイジアンネットワーク 価値創出

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本稿で紹介する事例は、産総研人工知能研究センター 首席研究員 本村陽一先生、同センター 櫻井暎一先生との共同実施であり、人工知能技術活用セミナー(2017年5月18日、産総研人工知能技術コンソーシアム主催)の講演内容を編集して、お届けする。

AI活用に必要な視点は「データドリブン」ではなく、「ニーズドリブン」ではないか?

あらためて「AIとは何か」というそもそもの話

 今回は、久留米絣という伝統産業にAIを活用する話だが、そもそもの話から始めたい。

 AI(人工知能)とは何か。人間のように考え行動するロボットのことだろうか。確かにそれは1つのあり方だが、それだけがAIなのではない。AI研究には大きく2つの立場があると言われており、1つは人間の知能そのものを持つ機械を作ろうとする「汎用型のAI」で、もう1つは、特定分野の人間の知能を機械にさせようとする「特定型のAI」だ[1,2]。ビジネスで話題になるのは後者がほとんどで(注1)、この技術の主流となっているのが機械学習だ[2]。機械学習とは人間の学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術・手法である[3]。その手法で最も有名な1つがディープラーニングで、多層ニューラルネットワークによる手法だ[4]。

「AI技術」と「データ」があれば、人工知能なのか?

 では、この機械学習の技術とデータがあればAIができるのだろうか。筆者は以前、大量データによるニューラルネットワークを運用していたことがあるが、そのニューラルネットワークは年に一度の学習のみであった。さて、この年に一度しか学習しないものは“知能”といえるだろうか、単なる“複雑なアルゴリズム”だろうか。ここで厳密な定義をしたいわけでないが、ただいえることは、ヒトが日々学習しているように、よりよい“知能”とは学習サイクルがより早く回るものということであろう。図示すれば下図サイクルがまわることがAIに必要であるといえよう。

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 しかし現状を見渡すと、機械学習だけではなく基本的なデータ分析であっても、その結果を実践適用して次のサイクルへとつながっていないことが散見される(注2)。機械学習という“AI技術”を使っていても学習サイクルが一回転もしておらず、人工“知能”とはいえない状況となっていることも多い。“AI技術”を使うこと自体は、技術の進歩のおかげでそれほど難しいことではない。しかし、“知能”というからには、機械学習の結果が具体的アクションの実行につながり、学習がされているかが重要になる。したがって、AI活用の大きな課題とは、 “AI技術”を利用して上記学習サイクルをまずは1回転させてみることである。1回転ができれば、それが自動的に回るシステム化に繋げられるからである。

 それではこのサイクルを回すにはどうすればよいのだろうか。今あるデータでとりあえずやってみればよいというわけではないし、かと言って、データを闇雲に収集すればよいわけでもない。データや手法を分析者の視座・視点で決めてしまうと“使われない”アウトプットとなってしまい「⑤実践適用」に至らないものとなりがちである。

 そこで、データドリブンではなくニーズドリブンというアプローチを提案したい。これは、作業としての順序(上図①→②→③→④→⑤)ではなく、考える順番としては逆順の⑤から①に進める、つまり、データ収集・分析手法からではなく、⑤の「どう現場で活用するか」というニーズ理解から始める。⑤の活用ニーズがわかれば、③の必要なモデル構造がわかる。必要なモデル構造がわかれば、②の必要なデータがわかる。必要データがわかれば、①の収集データと収集方法の検討ができる。そして、業務課題に対して運用設計(業務デザイン)をすることで、データ収集の第一歩を動かすというのがニーズドリブンというアプローチになる。そして、この現場ニーズの理解に有用なのが行動観察である。

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