“デザインプロセスの狭間にある谷”を越えるには、「クリエイティビティに対するマインドや姿勢」の共有が必要だ
安松健(大阪ガス 行動観察研究所 研究員):
デザインの力を調査分析のステップでも発揮してもらうためには、デザイナーが深い考察に至るようなしっかりとしたインサイトを出さければならないということ、そして、調査・分析の段階からデザイナーに参加してもらい場を共有することが重要だということですが、その他にzibaと行動観察研究所のコラボレーション経験からみえてくることはありますでしょうか。
山田理湖(ziba tokyo コミュニケーション・マネージャー):
デザインに限らず、違う視点でモノを見る、見ようとするというのは、行動観察研究所とzibaに共通して持っている意識だと思います。既成概念を疑う、捉え直すというか。
安松:
従来とは違うモノの見方・考え方、新しい発想を受け入れる文化を共有できるというのは大きいですね。ziba tokyoのみなさんは、違う視点の意見をどんどんぶつけても本当に受け入れますよね。異質な意見を遠慮なく自由に言い合えるというのは、異分野連携をする上で必要不可欠な要素だと思います。クライアントとのプロジェクトも同じように進めていくと思いますが、どうでしょうか。
山田:
zibaは、クライアントから曖昧な状態で困りごとや課題を投げてもらうんです。その曖昧な課題に対して、zibaがこういうことですか、それともこういうことですかと色んなボールを投げ返していく中で、クライアントが気づいていくんですよね。「あ、違った。悩み事はそっちじゃなかった」と。そうすると、どんどん輪郭が明確になっていって、この輪郭だったら、プロダクトデザインですねとか、UIデザインで解決できますよなどと、どの解決策が最適なのかが見えてくる。同時に、解決のために考えるべき要素もいろいろ出てきて、整理すべきことが見えやすくなってくる。もちろん、ある程度の仮説に基づくボールのやり取りですが、初めに解決策をがっちり決めなくても、zibaだったら一緒に考えながら何でも相談できるなということで、当社に相談していただけているように思います。
そんなふうに、zibaにはすごく柔らかい状態の、謂わば“ファジーなオーダー”がくるけれど、それに向き合って、頭抱えて、こういうことですかねとやりながら進めていくからクライアントも含めたチームでの「Co-Creation(共創)」になる。曖昧なニーズに対して、ちゃんと輪郭を与えていくことができる。これは幅広いソリューションを持っていて、あらゆるニーズに対する方法論を事前に準備してカードを切っているという意味ではないんです。相談があった時点で、このニーズにはこれ、こちらのニーズにはこれと振り分けられるのではなくて、オーダーメイドのように一緒に考えて進めていく。はじめに正解をもっているわけではないということです。
安松:
なるほど。ziba tokyoというと、外資系デザインファーム的な“クールでドライ”というイメージがあるかもしれませんが、実際はしっかりとクライアントに寄り添って、じっくり対話して進めていくという進め方ですよね。やはりzibaのクライアントは、そのような共創的な進め方に慣れている企業が多いのでしょうか。
繁里光宏(ziba tokyo クリエイティブ・ディレクター):
いえ、慣れていないところの方が多いかもしれません。そもそも、ワークショップ形式というのは、もともとリサーチ会社が開くことの方が多いように思います。一方、デザイン会社にデザインを依頼する時は、そのデザイン会社にまる投げしてしまう。協働するというよりは、デザイナーにお任せしますというスタンスの仕事が多い業界だと思います。
安松:
そうなのですね。そうすると、共創プロジェクトを実現していくためには、誰かに答えを求めるのではなく、並走しながら新しい視点を受け入れて、みんなで解を創り出していくということを確認していくことが重要になりますね。つまり、“デザイナー”に任せるのではなく、自分がクリエイティビティに関わるのだという主体的なマインド・姿勢が重要になるということです。そして、これは自分たちのクリエイティビティに自信を持つということの根源となるマインド・姿勢になりますよね。
山田:
いわゆる“デザイナー”という肩書きを持つ人だけがクリエイターなのではないんですよ。zibaのデザイナーは率先してクリエイティビティを刺激し、加速させる役割であって、プロジェクト参加者全員がクリエイターという意識が大事になるんです。
安松:
このマインド・姿勢は、リサーチャーやデザイナーなどの専門家間の連携のためにも必要になる。スキルや機能が相互補完関係にある専門家(ex. リサーチャーとデザイナー)が集まれば、相乗効果がうまれると考えるのは早計で、スキルを共有できるだけではなく、クリエイティビティに対するマインド・姿勢を共有できていることが必要だということですね。