人工生命(ALife)とは何かの“先”へ──生命テクノロジーがつくる、人間中心・効率至上主義とは異なる社会

特別編1:青木竜太インタビュー

 2018年7月に東京で行われた人工生命国際会議「ALife 2018」を成功に導いたチームの舞台裏には、日本におけるTEDxKidsのパイオニア、青木竜太の存在があった。彼はいかにして人工生命に出合い、そして、「生命のOS」が生み出すこの技術によってどんな社会をつくろうとしているのか?
※本記事は『Evertale Magazine』の記事から、許諾を得て転載しております。

[公開日]

[語り手] 青木 竜太 岡 瑞起 池上 高志 [取材・構成] 宮本 裕人 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] テクノロジー 人工生命 Alife

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Photo by Tavis Beck on Unsplash(記事TOP写真)

「Alife研究」の夜明け──“ありえたかもしれない”も含めた「生命とは何か」を探求するアプローチ

 1987年9月21日、米ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所に、約160人の科学者が集まった。オッペンハイマー研究センターの2階で顔を合わせたのは、コンピューター科学者、物理学者、生化学者、理論生物学者、人類学者、動物行動学者といった分野の科学者だ。そのなかには進化生物学者のリチャード・ドーキンスや植物学者のアリステッド・リンデンマイヤーも含まれていた。

 彼らが5日間の会議で話し合ったのは、「人工生命」(Artificial Life/ALife)と呼ばれる研究分野についてだ。ロッキー山脈の南に位置するこの広大な研究所は、かつて原爆開発が行われたことで知られているが、ALifeから生まれる科学技術は「原子爆弾の開発以来の最も衝撃的なものだろう」とスティーヴン・レヴィは著書『人工生命』のなかで書いている。

 ALifeの歴史は、生命を数学や物理学の観点から解き明かそうとした科学者たちの歴史でもある。「人工生命の父」は、コンピューターの生みの親として知られる天才数学者のジョン・フォン・ノイマン。1951年に彼が、「オートマトンの一般論理学的理論」によってあらゆる生物もオートマトンの一種である、すなわちその振る舞いを数学的に記述することができると発表したのがALifeの夜明けだった。

タイトル初期の人工生命プログラムとして知られるのは、1987年にクレイグ・レイノルズが考案した「ボイドモデル」。コンピュータ上の鳥のオブジェクトに、「ぶつからないように互いに距離をとる」「互いに向きを揃える」「離れたところから集まってくる」の3つのシンプルなルールを与えるだけで、オブジェクトは生きた鳥の群れのような振る舞いを示した。
Photo by James Wainscoat on Unsplash

 1957年にノイマンが亡くなってからも彼の思想はさまざまな科学者に引き継がれていき、没後30年を経て、コンピューター科学者のクリストファー・ラングトンによってALifeは正式な研究分野として確立されることになる。「生命とは何か?」という問いに対して、ただ「われわれが知っている生命」(Life-as-we-know-it)を観察するだけでなく「ありえたかもしれない生命」(Life-as-it-could-be)を創造してみるべきだ、というのがその基本的なアプローチだ。

 ロスアラモスで行われた第1回人工生命国際会議(あるいは「A-life Ⅰ」と呼ばれる)の告知文で、ラングトンはこう綴っている。


人工生命は、自然の生命系に特有のふるまいを示す人工的なシステムについての研究である。これは生命というものを、地球に生じた特別な例に限定せず、可能なかぎりの表現を通して説明しようとするものである。これには生物学や化学の実験、コンピュータによるシミュレーション、純粋に理論的な研究が含まれる。分子、社会、進化の規模で起こる過程もその対象となる。究極の目標は、生命系の論理形式を抽出することである。

電子工学や遺伝子工学によって、いままでの<試験管内(in vitro)>ばかりか、<シリコン内(in silico)>にも新しい生命形態を作り出すことができるだろう。これによって人類は、いままでで最も深い技術的、理論的、倫理的な問題に直面することになるだろう。(『人工生命──デジタル生命の創造主たち』)


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