“誰か一人のためだけに”を考え抜く「Prototype for One」
倉成英俊さん(以下、敬称略):情報って、イノベーションの材料じゃないですか。どんな情報でも換骨奪胎すればいろんなことに役立つので、情報をウェブ上に集約して、それをもとに雑談しています。お呼びがかかれば、お題に合わせてBチームのメンバーを見繕ってブレストにも行きます。例えば、クライアントが「携帯電話の開発」に関心があるとしたら、音楽配信に詳しいDJや、テキストコンテンツについて話せる小説家、モバイルオフィスについて語るための建築家、健康系にも詳しい人……というメンバーリストを見せながら選んでもらい、一気におじゃまして一気に片付けて帰るということをやったり。
仲山進也さん(以下、敬称略):Bチームから生まれた独自のプロジェクトというのもあるんですか?
倉成:たくさんありますが、たとえば、アイデアを生む方法論は15個くらいオリジナルのメソッドを持っていて、最近結構引きがあります。1つご紹介すると、「Prototype for One」という方法。僕、学習指導の「公文式」が生まれた背景がすごく好きで、高校教師だった公文公(くもんとおる)さんが息子さんのためにつくった教材がすべての始まりだったんですよね。たった一人の息子のために作った教材が、今や世界中に広まって、僕が行っていたバルセロナでも見かけたんです。「これ、すごいことだな」と思って、“1人のために”が起点となった事例を調べてみると、結構あるんですね。ホンダ創業者の本田宗一郎さんが最初に自転車にエンジンを付けたのも、奥さんの買い物を助けるためだったという説もあって。
ここから着想を得て、「私たちも、身近な1人のためになるモノを考えてみませんか?」と始まったのが、「Prototype for One」なんです。「Prototype for おじいちゃん」「Prototype for 仲山さん」「Prototype for うちの猫」……愛する誰か1人のために真剣に考えると、誰でもプランナーになれるんです。例えば10人がそれぞれ10人のために考えてきたら、それだけで100個のプランが生まれる。
その超個人的なプランのうち、「これはそちらのおじいちゃんだけでなく、うちの犬も喜びそうです」という汎用性のあるものだけを開発に回していく。そんなことをやっています。
仲山:それ、間違いないやり方ですよね。発足が4年前ということでしたけれど、Bチーム結成に至る経緯はどんな感じで?
倉成:僕が所属していた部署の同じフロアに電通総研っていうシンクタンクがあって、「新しいチームを作ってくんない?」と言われたんですよ。で、いろいろ交渉の結果、「2年以内に成果を出してくれれば、手法は問わない」という条件を引き出せた。2年で成果出すには「リサーチに時間かけたくないな」と思った。だから、様々なジャンルに精通したメンバーの力を結集するのが一番早いと。それで、B面で光っている仲間を集めようと考えたわけです。完全に苦肉の策。