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競争優位が「瞬時に崩れ去る」時代の戦略書

『競争優位の終焉』

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一時的競争優位の時代を生き抜くためには?

 イノベーションは副業ではなく、専門部隊として構築され管理される必要があります。シナリオ5では、そのためのリーダーシップとマインドセットを変える必要性を説いています。一時的競争優位においては、時間の役割が極めて大きくなり「正確だが遅い」より「正確さはそこそこだが迅速」な判断を行うことに重きをおくことが必要になります。このマインドセットの変革には日頃から「予測」「見積もり」「目標」という単語の使用を禁じ、「仮説」「フィードバック」「マイルストーン」といった単語を使うようにすることから始まります。そして、これからの組織では、既存の優位性を活用する能力に長けた人物ではなく、市場や自社の優位性が変化している証拠を絶えず追い求められる人物を昇格させることが重要になります。

 そして最後のシナリオ6はこうした一時的優位性の時代において個人はどのようにキャリアデザインをするべきかいう点について述べられています。その対比は図5になります。

一時的優位性の時代における個人のキャリアデザイン▲図表4 一時的優位性の時代における個人のキャリアデザイン

 持続的競争優位の時代においては、組織が直面する課題の解決に役立つ能力を持つ人材が優遇されていました。そしてそれは特定の企業に組み込まれた形のものであるため、転職後にそのまま維持することは難しいものでした。

 しかし、一時的競争優位の時代は、新たな優位性を創造する際に役立つ知識、スキル、コネなどが重要になり、これは組織では無く個人に帰属するものになります。つまり、組織を変えても維持される個人の資産に着目した能力開発が重要になってきます。日本におけるこのトレンドは欧米に比較すると遅れてはいますが、私自身も今後加速していくのは間違いないと感じています。先日もそして今日も身近な思いと能力のある人材が、大手企業を離れ新たなチャレンジのスタートを切りつつあります。

 意外に忘れられていることでありますが、大企業という組織が世に現れてからまだ100年強の歴史しかありません。そして企業戦略を検討するために、この100年の間に構築された様々な戦略ツールは、いつ何時にも活用できるものというよりは、各々の時代における重要な課題を解決するために練り上げてきたものだと考えるほうが妥当です。

 そうすると今は多くの企業が直面するであろう(もうすでにしている)、一時的にしか優位性を確保できない時代に対応する新しい戦略ツールが必要とされ始めたことになります。本書は、その新しい時代における組織と個人の新しいありかたを提唱しています。そのような性質のものであるため紹介される実例はまだまだ十分とは言えません。しかし、それを差し引いたとしても我々が本書から学ぶべき事が数多くあることには変わりありません。

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この記事の著者

津嶋 辰郎(ツシマ タツロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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