広告が見られない時代だからこそ、店舗が一対一のコミュニケーションの場=メディアとなる
──小売業でのAI活用のポイントですが、前回はコスト削減・省人化についてお伺いしました。今回はもう一つのポイント、店舗のメディア化についてお聞かせください。
亀田晃一氏(以下、敬称略):メディアというと、テレビやラジオ、新聞、雑誌、といった基本は一対多、つまりマスメディアなんです。大量生産時代はテレビで大量にCMを流して、店頭に商品を並べれば売れた。でも、本来のマーケティングは、「ONE to ONE」であるべきなんです。昔の魚屋で「奥さん、昨日はサバだったから、今日はサンマなんかどう?」というようなコミュニケーションは珍しくありませんでした。店主の記憶というデータで、一対一のコミュニケーションを行っていた。これがマーケティングの根幹なんです。
いまは、マスマーケティングの時代を経て、ONE to ONEに回帰しています。例えば、レジクーポンなどは、購買内容に応じて、クーポンを発行する。これまでの購買履歴に応じて適切なクーポンを発行して、次回も来てもらおうとしています。広い意味で広告の役割を果たしていることになります。
でも、これには弱点があって、次回来店を促す効果はあっても、「その日、その時のタイミング」ではない。店舗の中にいるときに、適切にアプローチできれば、その日に買っていただける。そのために、タブレット付きカートや店内サイネージを強化しています。
──店頭が、あるいは店内がメディア化するということですね。
亀田:いわゆる広告とは大きな違いがあります。例えば、先ほどのクーポンですが、通常はスポンサーからお金をいただいてクーポンを出しているんです。その主役はスポンサーであるメーカーです。お客様の都合はあまり意識されない。しかし、それでは当社で考えている「消費者主権」ではない。当社は、その人の購買傾向や店内のどこにいるかなどを考えて、「本当に、お客さまが望んでいる商品」を紹介する。そのほうが、購買意欲を喚起して、売上に繋がる可能性が高い。
いま、ネットマーケティングでは、お客さまがウェブサイトのどのページをどのくらいの時間見ていたのか、次にどのページに移動したか、どこで離脱したかといったアクセスログを詳細に取得できます。それを分析して、ウェブサイトの改善、動線に応じたアプローチを実行している。いま、タブレットカート、店内カメラなどを駆使して、お客さまがどのように店内を回遊して、何を買って、いまどこにいるのかがわかります。ウェブでやっていることと同じなんです。店舗において、それに似たアプローチができる。
──そこで得られるデータの価値も高そうですね。
亀田:いままでデジタル化、つまりIoTの導入、AIの活用を中心に話しましたが、最も重要なのは、「お客さまを理解すること」です。その次がコンテンツで、店員のリコメンドやおすすめ商品、生産者情報などのコンテンツになります。こういったコンテンツを充実させて、お客様に適切なコンテンツを適切なタイミングで提供する。そのためには、大量のデータとその分析が欠かせない。
──タイミングにあわせたご提案が重要ということですね。福岡の店舗で何か工夫されていることはありますか?
亀田:クイックキッチンですね。スーパーにはお惣菜コーナーがありますが、スマートフォンで事前にオーダーしておくと、店舗でできたてのものを受け取れるサービスです。
これで狙ったのは、コンビニの逆のサービスなんです。コンビニはいつでも、同じものが揃っている。そのために、何をしているかというと、賞味期限の延長です。
でも当社の店舗では逆に「いつ行くかを指定してもらえれば、そのときに作る」という一対一のサービスを提供している。これもおもてなしだと思います。それがスマートフォンで注文というIoT技術で実現しているということなんです。
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『特集:AIを活用した顧客体験の変革(2) AIを活用した「顧客体験の向上」と「長期的な関係性構築」』(PDF)の収録内容
■収録記事1『小売での“おもてなしイノベーション”に必要な「AIによる店舗のメディア化」と「人材育成」とは?』
・語り手:株式会社トライアルホールディングス 代表取締役社長 亀田 晃一 氏
■収録記事2『復興支援につながるチャットボットを活用した、観光地での「集客」「おもてなし」「リピート」促進施策とは』
・語り手:宮城県石巻市産業観光課観光事業グループ 浅野 大(あさの・ひろし) 氏、高馬 一世(こうま・いっせい) 氏、株式会社街づくりまんぼう(石ノ森萬画館指定管理者)大森 盛太郎 氏、株式会社NTTドコモ イノベーション統括部 鈴木 信也 氏