“不都合な未来”にこそ目を向けるべき
シナリオ・プランニングにおいて、「適切な未来」とは必ずしも、現在からみてそうなる確率の高い未来ということを意味しません。むしろ、そうした現在の延長線上の未来とは違う未来を想定して行うものです。
たとえば、1970年代にロイヤル・ダッチ・シェルが行なったシナリオ・プランニングにおける「石油危機シナリオ」は当時、多くの企業が想定外だと考えたストーリーでした。当時確実だと思われた未来とは、これまでどおり石油の供給は伸び続けるという未来であり、その伸びにあわせた投資を行うという判断こそが正しいものだと思われていました。シェルは、それと真っ向から対立する未来を想定したのです。
このようにシナリオ・プランニングでは、「確実に起こるひとつの未来」という考え方を否定します。未来はどうなるか不確定であり、だからこそ未来についての多様な仮説を展開する必要があります。中には、議論がわき起こるような未来もあるでしょう。シナリオ・プランニングはその確率を予測するものではありません。あくまで、可能性のある未来に向けて対処していくのがシナリオ・プランニングの考え方なのです。
その意味で、企業にとって不都合な未来シナリオこそ、検討すべきものなのです。都合のいい未来は、現状を維持していればよいのであり、特に検討を要するものではありません。新規事業が必要となるのは、不都合な未来が起こったときなのです。
こうした前提に立って新規事業立案するようになって、経営陣の事業案を見る目が変わりました。そこには企業の未来の危機的な姿が映しだされていたからです。