イノベーションを推進するリーダーに必要なPassionとは
──ビジョンに基づいて一人ひとりが自律的に行動し、そこに一定のルールと自由度がある環境というととても理想的です。そこには従来的なリーダーは不要になるのでしょうか。また、そうだとしたら新しいリーダー像をどのようにお考えですか。
SAPジャパン株式会社 大我猛氏(以下、敬称略):新規事業開発にエース級を投入してもうまくいかなかったという話も聞きますが、おそらく従来の枠組みで実績のある人では価値観ややり方が違うのだと思いますね。それよりは、既存の仕組みでは成果を出せなくても、新しいことに対して情熱をもって取り組める人が望ましいでしょう。
さきほど、日本の課題として「3つのP」という言い方をしましたが(前編参照)、ここに4つめの「P」としてPassionが加わるのだと思います。そのような人をどう抽出していくかといえば、やはりビジョンへの共感性の高さでしょう。頭で理解するだけでなく、どれだけ情熱をもって取り組めるかが大切になります。
では、過去の実績がなくても情熱がある若い人がいいかといえば、一概にはそうはいえません。かつて一定の年齢になると成長は止まるといわれていましたが、まったくそんなことはなくて、ビジョンを心から理解して動ける人は柔軟に進化するし、それが業績にも反映されてくるんですよ。
VISITS Technologies株式会社 松本勝氏(以下、敬称略):まさに「0→1」と「10→100」のフェーズでマインドセットがまったく違ってきますよね。コンサルタント出身者の中には「0→1」のサービスづくりにおいても顧客のニーズをヒアリングしようとする人がいます。でも、顧客も潜在ニーズについては言語化できないので聞いても意味が無いんです。むしろ大切なのは顧客に深く共感し「もっとこうしてあげたいな」と感じたり、、自分自身も「こういうものがあればいいな」と強く切望できるものがあってはじめて、本当に事業を成長させるための情熱が生まれるのだと思います。
iPhoneもそうでしたよね。顧客に聞いてもそんなアイデアは出てこない。顧客やその先のユーザーのインサイトを見定めながら、自分ごととして共感し、自分が切望してこそイノベーションを起こすアイデアが生まれ、それを実現する情熱も継続できるのではないでしょうか。それは真っ白なキャンバスに絵を描いていく力であり、そこに必要なのは「何かを創造し、世の中を良くしたい」というマインドセットでしょう。
大我:コンサルタントの思考が「課題解決」としたら、イノベーションにつながるデザイン思考は「課題発見」といわれています。フォードがもし顧客に伺いをたてていたら、自動車ではなくて多数の馬をつないだ速い馬車をつくっていたかもしれないといわれていますよね(笑)。そこをパラダイムシフトしてイノベーションを起こしていくには、自分たち自身で情熱をもって課題を再定義し、「絶対に解決したほうがいい」と情熱をもつことが最も大切なのではないでしょうか。実際、そのように思えるものならば、それがかなうと「もう以前の世界に戻れない」ということになりますから。
松本:当社のオフィスも実はそうですよ。一度知ってしまうと、もう普通のオフィスで仕事をする気にはなれませんね。今後はそうした快適性を追求したオフィスが増えていくのではないでしょうか。