事業的な伸びしろよりも、“Reason”を重視する組織文化
埼玉大学経済経営系大学院 准教授 宇田川元一氏:ここまでのお話から、御社はPMIにおけるプロセスの中で、対話を通じた社員一人ひとりの”Reason”の形成、事業に向かう必然性を大事にされてきたのだなと感じています(※前編参照)。この点は事業開発においても大事な要素であり、御社が保育事業向けの食材提供サービスに注力し始めたことにもつながってくるのかなと。
この事業はもともと、らでぃっしゅぼーやが展開していたんですよね。ただ、当時は親会社であるNTTドコモからは事業としての資源配分をあまり受けていなくて、細々とした取り組みだったと記憶しています。
オイシックス・ラ・大地株式会社HR本部 人材企画室室長 三浦孝文氏(以下、敬称略):そうですね。オイシックスブランドには小さなお子さんのいる共働き世帯の利用者が多かったので、保育事業向けサービスの拡大は、統合によるシナジーが明確に出せたひとつの事例かなと思っています。
宇田川:たとえシナジーが見込めたとしても、事業として形にするためには、やり遂げなければいけない。戦略は描けるとしても、実際に動き出せば資源はどんどん減っていくし、当然リスクもあるわけです。「どの事業に資源を投入するか」は、それ自体が社内外に対して、「自分たちにとってどのような必然性があってこれをやるのか、何をやっていこうとしているのか」を示すメッセージになりますね。
三浦:保育事業向けサービスへの注力はまさに、3社それぞれの“Reason”をすり合わせた結果、具体的に形になった“Will”だと言えそうです。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 荒金泰史氏(以下、敬称略):保育事業向けサービスは、経営統合前は「あまり採算がとれなさそう」という判断もあっと思います。統合後に、そこの伸びしろや可能性を自分たちで再評価した結果「いける」と判断されたのでしょうか?
三浦:伸びしろという観点もあったかとは思いますが、それよりも「そこに明確な課題があるかどうか」を、私たちは重視しています。社会的に課題があればニーズがあり、その解決にアプローチできる商品を提供できれば、なんらかの売り上げはあがる。その課題に困っている人が多いほど、結果としてビジネスが拡大する可能性も大きいはずです。
もちろん、「どの規模感の課題に取り組むか」「その課題解決は自分たちが取り組むべきものなのか」などの検討は逐一行ないますが、基本的な「社会の課題解決のために事業を行なう」という“Will”は、経営統合の対話プロセスを経て、社内でますます強固に共有されるようになりましたね。