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社会人が大学院で研究する意味 (AD)

管理者大量生産型ではない“研究者クラフト生産型”の教育──宇田川先生が聞く社会人大学院での研究とは?

ゲスト:埼玉大学大学院 人文社会科学研究科 准教授 高端 正幸氏、准教授 石 瑾氏

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アリババとAmazonの「違い」と「共通点」を分析する

宇田川:石先生は、サプライ・チェーンを研究なさっていますが、今はどんな研究をなさっているのですか。

石:院生の頃から一貫して、多国籍企業の国際戦略やサプライ・チェーン・マネジメントに関する研究をしています。最近は、特にEM-MNEs(Multinational Enterprises from Emerging Market)と呼ばれる新興市場発の多国籍企業に注目しています。従来、多国籍企業と言えばまず思い浮かぶのがユニリーバやP&G、トヨタといった先進国の大企業ですが、実は、ここ数年、グローバル市場における新興市場からの企業のプレゼンスが急速に拡大しつつあるのです。それを裏付けるには米フォーチュン誌の発表したグローバル500社のデータが有効です。2019年、新興市場からの企業が3割以上も占めており、その数字が2025年にさらに5割以上になると推測されています。

 従来の先進国発の企業に比べ経営資源が乏しく、経営能力が劣っていることが特徴とされていた新興市場発の多国籍企業がいかにして競争優位を構築できたのか。非常に興味深い研究課題だと思います。そこで、代表的な企業としてアリババについて調べました。

 研究の結果としては、アリババが「二重の国際化」を展開していることがわかったのです。ここでの「二重」には2つの意味があります。1つは進出先が二重になっていることです。つまり、新興市場だけではなく、先進国市場にも積極的に進出しているのです。そしてもう1つは、それぞれの市場に参入する戦略意図が二重化することです。新興市場の多国籍企業による先進国市場への参入は、先進的な技術や経営ノウハウを獲得することを主な目的にしており、いわば「資源探索型の国際化」です。それに対し、他の新興市場への参入は、大抵中国で築いた競争優位を生かすためなのです。すなわち、「資源活用型の国際化」ですね。

タイトル

宇田川:おもしろいですね。つまり、アリババがアメリカのような先進国に進出したのは、テクノロジーやノウハウなどの資源を手に入れるためで、一方で、東南アジアなどの新興国にも進出していることに関しては、既存の経営資源を再び活用するためということですね。資源探索型と活用型、両方をやっています。

 最近、ハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・L. タッシュマン氏とスタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・A・オライリー氏の提唱する「両利きの経営」が話題ですが、彼らの理論のベースになるのは元スタンフォード大学名誉教授の故・ジェームズ・マーチ氏の「Exploration and Exploitation(探索と深化)」です。その中で、探索的活動と深化的活動をバランスよく1つの組織でやることの重要性を指摘しています。アリババは国際化のプロセスで両利きの経営をやっているというわけですね。何がそれを可能にしているのでしょうか。

石:この企業が構築した「エコシステム」だと思います。アリババのエコシステムは複数のプラットフォームから構成されています。その中で基礎となるのはオンライン・ショッピングの媒介であるECプラットフォームですね。その後、オンライン・ショッピングにおけるお金の流れをよりスムーズにするため、決済のプラットフォームを開発しましたね。それが皆さんご存知のアリペイです。さらに、アリペイをベースにし、貯蓄、保険、ファンドなど多様な金融機能を搭載したFintechのプラットフォームも作り上げたのです。

 このように、ECプラットフォーム、決済プラットフォーム(アリペイ)とFintechプラットフォームは1つのエコシステムを形成し、アリババには多大な競争優位をもたらしたのです。特に、このアリペイはアクティブ・ユーザーが8億人も超えており、中国で最も広く使われるモバイルペイメント・ツールとなっています。まるで社会インフラのような役割を果たしているのです。

 実は、エコシステムを展開しているのはアリババだけではないです。アメリカのGAFAも同じように巧みにエコシステム戦略を駆使していますね。

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研究を通じた“複眼的な視点”で変化を読み、根底にある共通項を発見する

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