都市の“単位”は行政区分から都市圏、そして文化圏へ
大山 貴子氏(株式会社fog代表、以下敬称略):先日創刊第二号が刊行されたリ・パブリックが刊行している雑誌「MOMENT」では、「エイブルシティ」をテーマになさっていますね。現在、都市の再開発などでは「スマートシティ」を掛け声に進めることが多いですが、なぜスマートシティではなく「エイブルシティ」に注目をしているのでしょうか。
田村 大氏(株式会社リ・パブリック 共同代表 、以下敬称略):この「エイブルシティ」という言葉は、リ・パブリックのディレクターでMOMENT編集長の白井瞭による造語です。街は、そもそも人の可能性を高めるものであるべきだ、という発想が背景にあります。一方で、一般的に語られるスマートシティには「技術のショーケース」的なイメージがあると思っています。
市川 文子氏(株式会社リ・パブリック 共同代表 、以下敬称略):2013年の創業以来、リ・パブリックでは市民がいかにして都市の未来に関わっていくかをずっと考えてきました。ただ、企業からは常に「次はスマートシティがくる」「海外ではスマートシティが流行っている」と言われていたんですね。しかし、市民のいないところでテクノロジーの可能性を云々することには疑問がありました。そこで欧州の都市を集中的にリサーチしていきました。
その過程で「都市を行政区分で考えて失敗する例」を見ました。今回のコロナ禍でもそうですが、都市を考える際は、物理的に日々人が移動する範囲まで含めて考える必要があって、行政区分ごとに考えることはできないんですよ。リスボンの隣町カシュカイシュではかなり早い時期からありとあらゆるモビリティを念頭に入れた素晴らしいモバイルアプリがかなり早い時期に開発されたのですが、リスボンに入った途端そのソリューションが使えなくて降りられなかった、なんてことが多発しました。
そこで次の段階の街づくりでは、人が日々移動する範囲を含めた「機能的都市圏」で考えるようになりました。バルセロナでは36の自治体を束ねるバルセロナ都市圏(AMB)がそのプラットフォームとして機能しています。
そして今はさらに進んで「都市の個性によるネットワーク化」が進んでおり、都市のグローバルネットワークも今や200を超えていて、情報交換が進んでいます。行政区分ごとに機能だけを考えてデジタル化するような古いタイプのスマートシティをやってしまうと、世界各地での失敗と同じ轍を踏むだろうと思います。
田村:そして「都市の個性によるネットワーク化」は、クリエイティブ層を惹きつけるような文化を育て、市民の可能性を高めているとも言えるんです。