経理部門と経理パーソン、それぞれの「戦略的経理思考」
──前田さんの著書で提唱されている「戦略的経理思考」とはどんなものですか。
前田:「戦略的経理思考」にはふたつの意味があり、ひとつは「経理の存在の重要性を組織に認識してもらうために、戦略的に行動する」ということです。もうひとつは「経理社員自身のキャリアアップを戦略的に組み立てていく」ということです。
組織の中では、「あの人の言うことなら聞こう」ということがありますよね。そのように、経理が組織の中で認められる存在になるには、個人的な成長やアウトプットの仕方、評価のされ方というものも考えていく必要があります。黙って数字を処理しているだけでは特にテレワークなどでお互い距離が離れている環境では余計にその頑張りは気づかれにくくなりますから。
──「認められる経理」になるためにできることとは何でしょうか。
前田:まずは「守りの経理」として、経理処理や社内業務の生産性向上のための提案ができる経理になることです。
たとえば、ある中小企業では月次の全体会議の資料が40枚ありました。そのために、3日前から営業も経理も現場も全ての作業をストップして資料作成に一生懸命になっていたんです。その間は営業もできないのです。でも、その会社ではそれが長年当たり前の「習慣」「伝統」になっていました。「この資料作成は止めよう」ということがないまま積み上げでやってきて、気づけば40枚になってしまっていたわけです。
そこで私が「数百人規模の会社の会議で資料が40枚あるのは少し多いかもしれません」と言い、40枚の中身を仕分けして10枚以内にするように提案しました。そして今後はもし社長が「これも資料に入れて」というものがあれば、代わりに他の資料を1枚削って常に10枚以内にしましょう、ということにしたんです。もしそれで3ヶ月やってみてダメだったら資料を15枚、20枚などに戻しましょう、ということで始めましたが、再び増えることはありませんでした。
これは現場の方々から真剣に感謝されました。「これで営業に行けます」と。会議そのものも、資料を読み上げるのに時間を費やしていたものから、議論主体のものに変わりました。各自が緊張感や意見をもって会議に出るようになったのです。このように、たったひとつの改善でも、会社全体の生産性を大幅に向上させられるわけです。
お伝えしたいのは、自分の業務スキルを生かして改善提案をしていくとみんなの動きも変わっていく、ということなんです。誰も読まないような業界紙の契約を止めるとか、今まで使っていた広告媒体からインターネット系のものに代替することで費用対効果を高める提案をするとか、自分の身の回りの小さな改善から、経理の観点で現場の方々と一緒に提案することまで、できることはいろいろあると思います。