“攻めの経理”としての新規事業提案
──「守り」と言っても経理部門の中に閉じた仕事だけでなく、他の部署の仕事を経理的な視点でサポートするようなことまで含まれるわけですね。
前田:営業にもマーケティングにもその他の部署にも、数字は関係してきます。数字に関することは全て経理と関わりがあるはずです。全てには関われませんが、その中でも自分が興味のあることや得意なことに対し、垣根を超えて入っていけるかどうかということが、これからは大事になってくるのではないでしょうか。
──経理には社長のパートナーやアドバイザーとしての役割もあります。
前田:そうですね。信頼できる経理がいれば、社長は安心して次の経営判断ができます。
──それでは、「攻めの経理」としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。
前田:売上・利益をもたらすための新規事業提案に関与、貢献することです。
──経理が新規事業提案というのは、意外ですね。
前田:経理をやっていれば当然、数字に対する感覚は磨かれていきますよね。経理の仕訳入力を1年でもやれば、どのようなビジネスモデルが儲かり、反対にどのようなビジネスモデルが売上は大きいけれど赤字になるのかといったことくらいは感覚的に分かるようになるのではないでしょうか。それに経理には、あれこれ想像して考えることが好きな人も多いように思います。私が会社員時代の経理の先輩たちは、「どうしてうちの会社はこういう新規事業をやらないんだろう」とか「こうやったら儲かるのに」といつも言っていました。同業他社や異業種の儲かっているビジネスモデルやIR情報も上場企業なら開示されていますから、そういう情報から「うちの会社でこういうビジネスをやったら儲かるんじゃないか」と考えつくことができるんです。
──目の前の業務だけでなく、他社のビジネスモデルなども興味をもって見ておこうということですね。
前田:そういったスキル、マインドは必要だと思いますね。そうした視点をもった経理社員が新規事業の事業計画作りに最初から参画していれば、社長や事業部門だけで作る新規事業計画よりも、より失敗しない、確実なものを作れるはずです。
多くの中小企業では、社長のトップダウンか現場からの提案をもとに、役員会で「こういう新規事業をやろう」と決めてから総務人事や経理財務に事後報告をします。でも、そういうフローで実際に新規事業を始めると計画どおりに進まないことが多いように思います。
ビジネスを始めるにはいろいろな契約や諸手続きが必要ですが、そうした細かい確認が漏れて、契約手続きの完了だけで事業のスタートが当初から2~3ヶ月遅れることも多いですし、店舗経営などは内装工事が1~2ヶ月遅れるということなどもよく起こります。そうなると、計画上は売上があった月も数カ月は0円、ということになりますからから、予定では初年度は黒字か収支トントンだったつもりが大赤字、ということも起こり得ます。
景気の良いときなら、それでもいいんです。でも、コロナ禍の今は現状を打開するために新規事業をやるわけですから、大赤字にしてはいけません。
そこで、守りの経理のスキルが攻めにも役立ってくるわけです。最悪これだけの費用はかかる、それでも売上がこれだけあればトントンくらいにはなるし、上手くいけば確実に既存事業の助けになる。そういった「数字は保守的に見ながらも、強気」という事業を考えられるのは、会社の全てのデータを見ている経理や経営者にしかできないことです。このような役割ができれば、会社も助かり個人のスキルや評価も伸び、Win-Winです。