シナリオプランニング実践前に不可欠な3つの準備
シナリオ作成者と使用者の明確化
シナリオプランニングの実施に先立ち、シナリオを作成するメンバーの選定・招集が必要となります。経営陣、事業部長、部課長、経営企画などを対象に、実施目的を踏まえながら適切なメンバーを検討することとなります。場合によっては、テーマを深める上で重要な視点を持ち込んでくれる社外のステークホルダーを巻き込んでも良いでしょう。人数は全体で議論できる4名~8名程度の場合もあれば、作成プロセスに多くの関係者を巻き込むことを重視し30名~50名程度で実施することも可能です。
シナリオを作成するプロセスの中で、参加メンバーは未来に関する多量のインプット、議論を経ながら、自分自身が自社や顧客などに持つ前提・思い込みを拡張してこととなります。その結果、未来に関する感度が高まり、小さな変化の種を見逃さず、迅速且つ柔軟な変化への対応力を向上させることにもつながります。
また、作成したシナリオを誰が活用するのかを事前に想定しておくことも重要です。シナリオ作成者がそのままシナリオの使用者になることもあれば、両者が異なることも考えられます。たとえば、経営企画が作成したシナリオを、経営陣が活用することもあるでしょう。作成者と使用者が異なる場合には、シナリオを効果的に伝え、意思決定に反映されるようにアウトプットや浸透方法について考えることがより一層重要となります。なぜなら、シナリオは不確実性が高い「起こりうる未来のストーリー」であり、そのプロセスに関与していなかった使用者が実際に「これは確かに起こりうることで、適応策を考える必要がある」と考えない限り、戦略や施策に反映されることはないからです。
テーマ設定
VUCA時代の中でビジョン策定や戦略策定に取り組むにあたり、未来についてどんなことを明らかにすることが有益でしょうか。シナリオプランニングのテーマ設定として、自社のビジネスに大きな影響を与えうる未来の外部環境の姿をテーマとすることが一般的です。 テーマは時間軸を含めた形で設定します。設定する時間軸を1~3年とすると、過去や現状をベースとした未来洞察という制約を受け、現状と大きく異なる「起こりうる未来」を描くことが難しくなります。私たちが支援してきた中では、ビジョン策定や長期経営計画策定にあたり、10年程度先の未来洞察に取り組むことが多い傾向にあります。
上記を踏まえると、「2030年の日本における働き方」や「2030年の飲料業界」、「2030年の建設業界を取り巻く環境」などがテーマ設定の一例となります。
重要なステークホルダーや関心事の棚卸
テーマに関連する重要なステークホルダーを事前に想定し、そうしたステークホルダーの視点をシナリオプランニングに持ち込むことは有益です。なぜなら、設定したテーマに影響を与えるのは自社だけではなく、未来は多様なステークホルダーの意図や行動の相互作用の結果として形成されるためです。
たとえば、ある食品卸企業が食品業界の未来について取り組む場合、小売り、食品メーカー、一次生産者、消費者、関連省庁、気候変動に取り組む国際・国内団体などについての視点を意識することが必要かもしれません。
シナリオプランニング実施前にシナリオ策定チームで下記のような問いについて考え、会話を始めることで、自分たちの視点を広げ、起こりうる未来を洞察する良い準備をすることができます。
- 設定したテーマに関連する重要なステークホルダーとしてどんな人・組織が存在するでしょうか?
- 各ステークホルダーは、どんな関心を持ち、どんなことに悩み、どんなことに取り組もうとしているでしょうか?
- ステークホルダーの関心を踏まえて、現状でビジネスの前提としていることだが“もしかしたら”変化しうる事柄はなんですか?もし変化が起こった場合、自社にどんなインパクトがありえるでしょうか?