「エラーを飼うこと」と「正しい適応を問うこと」
太刀川:プロセスを豊かにすることが重要というのは本当にそうだし、同時に、それはより適応した状態を生むことにもつながります。本にも書いているたとえ話ですが、有性生殖(雌雄の配偶子によって新個体が形成される生殖法)って、基本的にはめちゃくちゃ不合理な仕組みです。オスとメスを作って、それらがつがいにならなければいけないし、つがいになったとしても確実に子が生まれるとは限りません。それよりは、自分のコピーをどんどん残していく方が、種を増殖させるという意味では一見効率的に見えます。
じゃあ、なんで1億個もの“精子ガチャ”を作り、それでやっと生まれたものを野に放ち、オスはメスに選ばれるために競争する必要があるのか。それは、環境が生態系の影響も受けて常に変化し続けているからです。状況が変わり続ける中で同じ遺伝子がコピーされていては、ウィルスが蔓延したり気候が変わったりした際に全て死んでしまう。そうならないように、種としてのバリエーションを用意しておく必要があったわけですね。その振れ幅がDNAのコピーエラーレベルでは足りなくて、精子として1億個のコピーエラーを生み出すような仕組みが獲得されていったのだと言われています。このようなエラーやランダムネスの仕組みを自分たちの中に「飼う」ということが、変化の激しい環境を生き残るための必須の生理であったのでしょう。