イノベーション・リーダーに求められるのは、「ビジョン」と「浪花節」のバランス

チクセントミハイ博士鼎談を受けて――入山&佐宗の振り返り対談

 前回お送りしたように、フロー理論の提唱者であるチクセントミハイ氏を囲んでの鼎談では、クリエイティビティとイノベーションについて多くの情報やヒント、事例が与えられた。興奮冷めやらぬ様子の入山章栄氏と佐宗邦威氏は、そこから何を気づき、どう考察を行ったのか。後半である今回は、都市とビジョンにフォーカスし、巨大な組織・人間の集団がどのようにしてクリエイティビティを生み出していくのかについて話を展開した。

[公開日]

[語り手] 入山 章栄 佐宗 邦威 [画] 清水 淳子 [取材・構成] 伊藤 真美 [編] BizZine編集部

[タグ] ワークスタイル 事業開発 チクセントミハイ クリエイティブテンション

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イノベーションを「都市のエコシステム」として捉える

入山 章栄 入山 章栄 氏
早稲田大学ビジネススクール准教授                     
入山:
 チクセントミハイ氏のお話の中で、僕が一番印象に残ったのは、フィレンツェの話です。都市の「クリエイティビティ」に貢献したのは、特別な技術や知識ではなく、『世界で一番美しい街を創ろう』というメディチ家のビジョン・熱意があっただけだった、という話でした。そのビジョンのもと、多くの才能が集まり、ミケランジェロのような天才が現れ、本当に美しい街を実現させた。メディチ家は「美しさは、その都市を守る」というビジョンを持ってい   て、そして実際に、数百年の後にフィレンンツェはその美しさ故にナチスの攻撃を受けずに済んだという、奇跡のようなお話でした。

タイトル 佐宗 邦威 氏
米デザインスクールの留学記ブログ
「D school留学記~デザインとビジネスの交差点」著者
佐宗:
 確かに印象的でしたね。イノベーションの話って、 僕たちが今まで話してきたように「イノベーター個人」を起点としたイノベーションや、「組織」のリーダーのための戦略や、経営手法、組織作りの方法論が語られることが多いですよね。それも大切なんだけど、でもそれだけじゃない。
 まず重要なのはリーダーの「ビジョン」で、クリエイティビティはその後に生まれてくる。そもそも経営者やリーダー自身がクリエイティブでなくてもいい。クリエイティブな人たちがクリエイティビティを発揮できる「場」を創ることが大切だということですよね。

入山:
 なるほどね。イノベーションにおけるリーダーの役割って、誤解されがちだよね。

 

佐宗:
 チクセントミハイ氏のフィレンツェの話を聞いて、「クリエイティブテンション」という話を思い出しました。人に創造性を発揮させるためには、現状に対し、ちょっと距離の遠い理想を定義したとき、そのギャップが緊張感となり、人がそのギャップを埋めるために火事場の馬鹿力的に創造力が発揮されるという人材開発の世界で言われている考え方です。クリエイティビティが生まれる場を「エコシステム」として捉え、リーダーにそのエコシステムにおける求心力、そしてクリエイティブテンションとしてビジョンを提示する力が必要だと思っているのではないかと思いました。

入山:
 どうしても人は「リーダーこそイノベーティブであれ」と考えがちですが、そうである必要はない、ということですよね。博士も、下の図にあるように、クリエイターのアウトプットをジャッジする人を、リーダーではなくて「ゲートキーパー」と名づけて役割分けしていましたね

タイトル図1:クリエイティビティのシステムモデル
チクセントミハイ博士のSlideshare
Csikszentmihalyi and the Systems Perspective for the Study of Creativity」(slide No.6)をもとに作図

佐宗:
 実は、はじめてこの図を見た時、「ゲートキーパー」の目利きの判断は、一体何を基準にして「いい」「悪い」を決めるのかと疑問に思っていたんですよ。でも、博士のお話を伺って、その基準が「自らが掲げたビジョンに対して合致しているかどうか」ということが明らかになって腑に落ちました。フィレンツェの場合はそれが「世界一の美」という審美眼的な基準だったんですね。

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