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経営変革の「思想」と「実装」

ロナルド・ハイフェッツ氏に訊く、企業文化の延長上にある適応型変革──破壊的変革の誤解と依存のジレンマ

第6回ゲスト:ハーバード・ケネディスクール ロナルド・A・ハイフェッツ氏【前編】

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 宇田川元一准教授(埼玉大学経済経営系大学院)が、企業のリーダーが陥りがちな誤りとして指摘するのが「本来、『適応課題』として捉えるべき問題を『技術的問題』として扱ってしまう」という点だ。このリーダーシップにおける「適応課題/技術的問題」という分類方法を提唱したのが、『最難関のリーダーシップ』『[新訳]最前線のリーダーシップ』の著者であるロナルド・ハイフェッツ氏(パブリックリーダーシップセンター創設者、ハーバード・ケネディスクール上級講師)だ。今回、ハイフェッツ氏との対談の機会が得られ、宇田川氏が以前から聞いてみたかったという質問を投げかけた。前編では、適応課題と技術的問題の見分け方、破壊的イノベーションの誤解、優秀なリーダーに起こる依存のジレンマを聞いた。

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適応課題と技術的問題をどう見分けるか

宇田川元一氏(以下、宇田川):私は企業変革について研究をしており、先生のリーダーシップ理論は非常に重要なものと認識しています。以前からお聞きしたかったこともありますので、いくつか質問をさせてください。

 まず、「適応課題」にどうやったら気づけるのか。先生も、適応課題は“自分の境界の外側にある”とおっしゃっていますが、日々の仕事の中で適応課題に気づかず、「技術的問題」として扱ってしまうケースが非常に多いと感じます[1]

技術的問題と適応課題の比較
図表:技術的問題と適応課題の比較
出典:ロナルド・A・ハイフェッツ 他『最難関のリーダーシップ 変革をやり遂げる意思とスキル』(英治出版、2017年)を参照し作成
クリックして拡大

 何か複雑で新しい課題にぶつかった際に、既存の解決方法を当てはめるのではなく、新たな学習が必要な問題だと気づくには、リーダーも含めて多くのビジネスパーソンは、どうすれば良いのでしょうか。

ロナルド・A・ハイフェッツ氏(以下、ハイフェッツ):私たちの研究においてもその点は完全な答えがあるわけではなく、だからこそ重要な問いです。ある程度ヒントはあるのですが、技術的問題と適応課題とを瞬時に見分ける明確な指標はまだありません。

 まず、問題が発生したごく初期の段階では、問題そのものが私たちの解決能力を超えており、新しいことを学ばなければいけない状況に置かれます。

 例えばパンデミックが起きた当初は、治療法がないことや、強力な行動制限によって死亡率を下げられることも分かっていました。そのような社会的な適応力は、人々が社会制度や政治的な権威を信頼する文化があるかどうかによって異なり、そのことが死亡率の違いに現れました。私がいるアメリカのように、権威に対する深い不信感がある社会では死亡率が天文的に高くなりました。当局は社会的行動を調整できず、人々も統制を嫌うからです。一方、日本やニュージーランド、オーストラリアなど、政治的な権力に対する信頼度が比較的に高い国では、社会的な行動の調整が可能だったのです。

 パンデミックの問題の一部は、技術的問題として対応が可能でしたが、それは最も基本的なレベルに限られました。私たちは生活上の制約を受け、大小さまざまな適応を必要としました。各家庭では、子どもの世話と仕事の両立を考えなければなりませんでした。私のような教師は、オンラインで教える方法を学ばなければなりませんでした。私が扱う内容はオンラインで教えることが難しく、そのためには全く新しい能力を身につけなければいけなかったので、少し怖くもありました。オンラインで教えられるようになるにはかなりの時間がかかったのです。

 企業も、生き残るための方法を学ばなければなりませんでした。中には、パンデミックの変化を利用して有利にビジネスを行う方法を学んだ企業もあります。行政においても、地方から国まですべてのレベルにおいて適応的な変化を求められました。


[1]「適応課題」と「技術的問題」の違いについての参考記事:宇田川元一『残業時間が減っても経営が変わらないのはなぜか──組織の「技術的問題」と「適応課題」』(Biz/Zine、2018年1月)

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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