デザインされたセレンディピティ
2009年、フィールズ賞数学者のティム・ガワーズは、未解決の難問に関するアイディアをブログに公開し、自由な参加を呼び掛けた。するとオンラインで数学者たちが集まり、議論が起こる。問題の核心の解決に至ったのは、わずかに37日後のことだった。
日本でも同じような事例があった。暗号化された叔父の日記をTwitterに投稿したところ、興味を持った人々がアイディアを交わして、解読に成功したのだ。この経緯はTogetterで追えるので、興味がある方にはお勧めしたい。
【ネットのちから】亡くなった叔父さんの日記が暗号で書かれてて読めないけど誰か!?→解読完了!#叔父日記暗号 http://togetter.com/li/749056
オンライン・コラボレーションが問題解決を加速する原理について、「デザインされたセレンディピティ」という言葉を当てはめるのは、理論物理学者のマイケル・ニールセンによる『オープンサイエンス革命』だ。
『オープンサイエンス革命』(マイケル・ニールセン著)
アインシュタインは重力の問題に関するアイディアを持っていたが、これを数学的に表現するための幾何学は専門外だった。そこで友人に相談したところ、彼の求める幾何学理論は、ベルンハルト・リーマンという男がすでに完成させていることを知る。このセレンディピティ(価値を生む偶発的な出会い)によって、「リーマン幾何学」は相対性理論を記述する数学言語として有名になる。
オンライン・コラボレーションとは、こうした専門知識同士のセレンディピティを、オンラインツールを用いて小さなレベルでも誘発させる仕組みである。個々人の持つ「ミクロの専門知識」が必要な個所に投入されるよう、仕組みをデザインすることで、「個の知」の集合知への変換が起きる。
ここで気を付けたいのが、オンライン・コラボレーションにはデザインが必要になる点だ。社内活性化を目指して開設された社内フォーラムが、ほとんどカキコミのないまま“Web遺跡”と化している、そんな風景を見たことがある人もいるだろう。コラボレーションは自然発生的に生まれるものではなく、ただオンラインで人を集めても成功できない。
どのように仕組みをデザインすれば、オンライン・コラボレーションは離陸するのか。本書が提示する成功条件の中でも、まずキーとなるのがインセンティブだ。著者は17世紀の「オープンサイエンス革命1.0」を振り返り、オープン化をもたらすインセンティブの役割を再確認する。