6割の企業がDXに着手、一方で成果までは遠い道のり
河井健之助氏は講演冒頭、インキュデータで行った独自調査を紹介した。そこでは、およそ6割の企業がデータの利活用への取組みや検討を始めているというものではあったが、デジタル化が目的となってしまうなどの理由から必ずしもDXの成功事例はまだまだ多くないようだ。河井氏のクライアントへの伴走の経験値からも、DXにおける“なぜそれを行うのか”という目的(WHY)、“どのように取り組むのか”という組織体制(How)に関して、悩みを抱えている企業が多いとした。
DX推進における「二つの課題」
河井氏自身は2021年4月にインキュデータに参画。そこから多くのクライアントと話す中で、DXプロジェクトの「目的」や「最終的なアウトカム(成果)」が社内で共有し切れていないと悩む企業が多いと実感している。また多くの企業がいずれはコンサルティングファームの支援から離れて、自走・内製化したいという意識を持っていると話す。しかし、そのやり方がわからないと悩む企業も多い。
つまり悩みは、「DXプロジェクトの目的、最終的なアウトカムなどを社内で合意形成できていない」「自走するために、人材や組織をどのように変えていくべきかわからない」の二つである。
DX推進における「二つのデザイン」
DXプロジェクトは、その目的、最終的なアウトカムに対する共通認識を、経営層だけでなく全社員で持っていないとならない。そうでなければ最終的にDXプロジェクトの成果を既存事業に取り込む際に、現場は負荷を感じるだけで意義が共有されずに止まってしまう。そこで、プロジェクトを進めるにあたっては、きちんと「なぜやるのか」から考え始めてビジネスをデザインすることが必要になってくる。つまりまず必要なのは「ビジネスデザイン」なのである。
またビジネスをデザインできても、実行する組織をコンサルティングファーム頼みではなく自走させていくには、挑戦を奨励するようなマインドセットや必要なスキルセット、企業文化が必要になる。つまり自社に合った「マインドセット・スキルセット・カルチャー」をデザインしなければならないのだ。
河井氏はこのDX推進に必要となる「二種類のデザイン」を考える上で参考になるとし、デザイン界の巨匠ジョン・ヘスケット氏のデザインの定義を引用する。
“Design is to design a design to produce a design.”
「デザインとはデザインを作る為のデザインをデザインすること」
「design」が一文の中で四つもあり、それぞれの意味は異なりそうだが、河井氏はビジネスデザインとは何かをこの一文に込めて解釈を加える。
「デザインという分野(A)は、成果の対象となるもの(D)を制作するために、そのコンセプトや企画(C)を構造化・翻訳する行為である(B)」