IPA(情報処理推進機構)は、日米企業におけるDX動向を比較調査し、戦略、人材、技術の面からDX推進の現状や課題などを包括的に解説する「DX白書2023」のPDF版を公開した。
DX白書2023では、新たに154件の公開事例を分析した上で、日本のDX事例を「企業規模」「産業」「地域」の3つの軸で俯瞰図として可視化。例えば、「地域」別俯瞰図では、北海道では農業でのデジタル活用、甲信越ではドローンによる森林調査など地域産業での活用、東北、北陸、四国では働き手の減少や高齢化といった地域課題の解決への活用がみられることが分かったという(図1)。俯瞰図を示すことで、読者は規模、業界、地域性など自身の状況やニーズに応じたDX事例を探しやすくなるとしている。
日米企業アンケート調査では、日本企業のDXはデジタイゼーションやデジタライゼーションの領域で成果はあがっているものの、顧客価値創出やビジネスモデルの変革といったトランスフォーメーションのレベルでは成果創出が不十分であることが分かったという。人材面では、DX推進における課題が顕著に表れ、技術面では、特にスピード、アジリティ向上に必要となる手法・技術の活用が米国企業に比べて遅れている状況が明らかになったとしている。
調査で明らかになった主なポイント
戦略面では、DXに取り組んでいる企業は69.3%となり、昨年度に比べ13.5%増加(図2)。しかし、全社戦略に基づいて取り組んでいる割合をみると、日米で13.9%の開きが見られ、日本企業における組織的なDXの取り組みが期待されるという。
また、DXによる成果の有無をみると、日本では「成果が出ている」とする企業の割合は2021年度調査の49.5%から58.0%に増加したが、日米差は依然として大きい状況にある(図3)。加えて、取り組み内容に対する成果を調べたところ、「アナログ・物理データのデジタル化」「業務の効率化による生産性の向上」について成果が出ていると回答した企業が、日米ともに80%前後で差が小さい一方、「新規製品・サービスの創出」や「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの抜本的な変革」といったトランスフォーメーションのレベルでは、日本が20%台に対し米国は60%以上となっている(図4)。
IT分野に見識がある役員の割合については、3割以上いると答えた企業は日本が27.8%、米国が60.9%と、2倍以上の差があったという(図5)。DXの推進には、経営のリーダシップが不可欠であるため、日本でも経営層のITに対する理解度を高めていくことが求められるとしている。
人材面では、DXを推進する人材の「量」を調査したところ、人材が充足していると回答した企業は日本で10.9%、米国で73.4%と顕著な差があったという。米国では「大幅に不足している」 と回答した企業の割合が3.3%に減少する一方、日本では2021年度調査の30.6%から49.6%へと増加し、DXを推進する人材の「量」の不足が進んでいることが分かったという(図6)。
DXを推進する人材像の設定状況に関しては、人材像を「設定し、社内に周知している」企業の割合は日本では18.4%、米国では48.2%であった。日本では「設定していない」割合が40.0%を占め、米国ではわずか2.7%となっている(図7)。人材の獲得・確保を進める上では漠然と人材の獲得・育成に取り組むのではなく、まず自社にとって必要な人材を明確化することが重要になるとしている。
技術面では、ITシステム開発技術の活用状況を調べたところ、日本企業はIT資産を構築・所有しないでサービスを利用する「SaaS」を活用する企業が40.4%と高く、米国の53.4%と差が少ない。一方、「マイクロサービス/API」は21.1%(米国は57.5%)、「コンテナ/コンテナ運用自動化」は10.5%(米国は52.1%)と、米国と比べて大きな差があった(図8)。
データの利活用については、日本が米国よりも進んでいるものの、データ利活用による「売上増加」効果を調べたところ、「接客サービス」「コールセンター」など7領域すべてにおいて米国では60~80%の企業が成果ありと回答したのに対し、日本では10~30%となった。また、「成果を測定していない」割合が日本では総じて50%前後であり、日本企業はまだデータ利活用の基礎段階であることが分かったという(図9)。
同白書では、アンケート調査結果のほか、ユーザー企業へのインタビュー調査による事例紹介や、有識者によるコラムなどを掲載。また、戦略面ではデジタル戦略の全体像と進め方、人材面ではDX推進に必要な人材に関する取り組みの全体像、技術面ではDX実現のためにあるべきITシステムの要件といった全体像を示しつつ、必要となる概念や技術要素についても包括的に解説しているという。
加えて、要点を37ページにまとめた「エグゼクティブサマリー」を同時公開し、経営層にも手に取りやすくしているという。
同白書は、IPAのウェブサイトでダウンロードできる。