IoTが最前線
米国のビジネスでは、IoT(モノのインターネット)が最前線で、確実に来ています。その最大の理由は、経営者がIoTを戦略的に重要と見ているからです。オセロのように、“そこをまず押さえた方が勝つ”という判断があるのです。
日本でも、IoTはキーワードとなっているが、米国の状況とはかなり差があると工藤氏は言う。日本の場合、IoTが製造業を中心として語られているが、米国ではコンシューマ市場のテーマとして注目されている。背景には「デジタル」に対する捉え方の温度差があるのだという。米国では今やデジタルは、テクノロジーではなくライフスタイル全般に浸透しており、IoTがそのトレンドを牽引しているからだ。 ITの世界にとってIoTが意味するものは、「大きなアーキテクチャの変わり目」なのだという。
大きいのは、エッジ・デバイス(終端に位置づけられる機器)による変化です。以前までは、サーバーが中心の世界と異なり、今やウェアラブルなどのモノがインターネットを介してつながる世界になった。サーバーはなくなり、クラウドに集約されるというアーキテクチャの転換があります。この先ひょっとすると、モバイルデバイスすら必然性もなくなっていくかもしれません。自然に身につけているものから、データが集積されていくにつれ、デバイスのエッジ側の重要性も高まる。クラウドが中心になるといいながらも、逆にエッジ側の半導体の性能もあがり、皮膜センサーなどの素材の技術も格段に飛躍するでしょう。
ウェアラブルによるデータの収集、IoTデバイスのセンサーによって、データが集積されることで、欧米ではプライバシーの問題が急浮上しているという。
日本では、個人情報については、かなり注力されてきましたが、センサーによって収集される個人のデータへの意識は、まだそれほど高くないように感じます。アメリカでは、IoTを基軸に個人が特定できる情報が重要になり、プライバシーの問題が浮上し、IEEEが標準化を進め始めています。
プライバシーデータの保護と活用について、本格的な議論がなされ、個人から得られるデータの活用についても企業が取り組み始めた。従来のようなデータを企業がマーケティングに利用するという姿勢ではなく、パーソナルデータを個人が活用するサービスの台頭である。 そのために、グーグルを筆頭に、オープンなAPIの戦略、重要課金モデルやSDKを展開してデータを自由に使い、データを拡大する戦略をとる企業が増えてきたという。この「APIとSDK」の公開による、オープンなイノベーションについて工藤氏は、身につけたスマートウォッチとスマートフォンを例に説明してくれた。
デジタルビジネスで戦略の舵をとる企業が増えてきていて、さまざまなサービスと製品が立ちあがってきています。面白いのは、コンシューマがデータをいじれることです。僕の家はシアトルにありますが、グーグルのNESTが入っています。グーグルNESTは今、私の手元のスマホからも起動できます。このアプリはベーシス・サイエンスといって、発汗量、心拍、加速度センサーでの走った距離、レムとノンレム睡眠などすべてのデータがとれます。コンシューマがいじって遊べるAPIやSDKが提供されています。自分でGoogleのNEST APIのデベロッパー登録をして、試しています。
ベーシス・サイエンスはインテルが買収したヘルスウエアラブル。工藤氏はこのベーシス・サイエンスと、グーグルが買収したNESTのサーモスタットを連携させ、自分の体調にあった自宅の温度調整を試している。
やろうとしているのは、ノンレム睡眠で発汗量が上がっている時に、不快感があがって起きてしまうので、閾値に達した時にNESTと連携してサーモスタット調整でエアコンの温度を下げる、というようなことです。今はまだ途上ですが。このようにSDKやAPIが公開されれば、コンシューマがIoTを経験できます。これが今の日米の圧倒的な差だと思います。