IRとは「経営そのもの」であり、企業と株式市場の「相互の対話」である
──おふたりは、それぞれヤフーと楽天にいらっしゃったときから親交があったのですか?
市川祐子氏(以下、敬称略):実際にお会いしたのは辞めてからです。でも、ヤフーと楽天は業界が同じですから、アナリストや投資家、ファンドマネージャーで両社とも担当している方が多くいました。投資家やアナリストの方々から浜辺さんの人となりや発言についてお聞きすることは、在職時代から多くありました。
なかなかタイミングが合わなくてお会いできずにいたのですが、3年ほど前に共通の知人との懇親会で一緒になり、「やっとお会いできた!」という感じでした。
浜辺真紀子氏(以下、敬称略):そうでしたね!
──同じインターネット業界の企業でIR責任者を務めたおふたりそれぞれにまず伺いたいのは「IRとは何か?」に関してです。
浜辺:最初にかつ、一番強く主張したいのは、IRが「経営者、そして社外取締役を含む取締役の責務」であるということです。これはコーポレートガバナンス・コードにも書かれていて、最近はやっとそういう見方がされるようになってきたな、と感じています。
──IRは担当者や部門が単独でやることではなく、経営チーム全体でやることだということですね。
浜辺:そうです。IR担当者は株式市場をよりよく分かっているものとして、経営トップや取締役会の代弁者となりますが、本当に対話の主体となるのは経営トップです。経営トップがリーダーシップを取ってやるべきことです。
それから、IRは株式市場と上場企業との「相互的なコミュニケーション」です。一方的に会社の状況を株式市場に伝えるというものではなく、株式市場からのフィードバックを受けて経営に活用するという点も重要で、その点がIRの黎明期にはあまり認識されていなかったように感じています。
市川:浜辺さんは以前から「IRは経営そのもの」とおっしゃっていて、まさにそのとおりだと思います。
浜辺:「会社は誰のためのものか?」、それはステークホルダー全員のためのものです。一方、「会社の持ち主は誰か?」に答えるなら、それは紛れもなく株主です。その株主に対してちゃんとコミュニケーションし、持ち主の意向を経営に反映するのは当然のことだという考え方です。意外と、分かっていない会社もまだあるように思います。
市川:私は浜辺さんの考えに全面的に賛成ですが、ひとつ付け加えると、IRは財務戦略という側面もあります。楽天でも、その前にいたNECエレクトロニクス(現ルネサス エレクトロニクス)でも、公募増資や資本市場を活用した資金調達の機会が多く、私はその中でIRを覚えました。
財務戦略は経営戦略でもあります。特に大きな挑戦をするときにはお金が必要で、借り入れや営業キャッシュフロー、そして株など、いろいろな資本をどのように使うのか、戦略を立てたら最終的に市場と対話をするのはIRです。株による資金調達をしていないときでも財務戦略は必要ですから、そういう意味でもIRとは経営そのものだと思います。