グループ全体で「CIPO」主導のグローバル知財活動へ
1997年に日立製作所(以下、日立)へ入社し、2000年に弁理士試験に合格して以来、25年間にわたり様々な知財業務を経験してきたという比嘉氏。「自分が若手だった時代は、書類に書かれた特許一つひとつを手作業で分類していたが、今はデジタル上でボタン一つでできるようになり、隔世の念がある。そして2019年頃から知財分析・IPランドスケープに関わっているが、近年の知財活動の盛り上がりを実感している」と語る。
元々、日立には知財活動と事業戦略の連携によって成長を成し遂げてきた歴史がある。そこから、さらに知財を通じてイノベーションの加速を図るようになったのは、2008年度に7,000億円を超える大赤字となり、その後に社会イノベーション事業への集中を宣言した頃からだという。それ以前は、競争戦略の中でプロダクトを中心に知財を特許で保護する狙いがあった。
その後、2012年以降になると、従来の“競争”戦略だけでは社会イノベーションは成し得ないという判断から、顧客と共にビジネスをつくる“共創”へと舵を切った。それに合わせ、知財活動にもコンペティションだけでなく、コラボレーションの視点が必要になってきた。
やがて2018年以降になると、パワーグリッド事業の買収やGlobalLogic社の傘下入りなど、海外売上比率が向上して海外の従業員も5割を超え、グローバル化が進んだことで、まったく文化が異なる海外拠点の知財部門とも自然と交流が進むようになったという。
そして2024年の中期経営計画では、「グリーン、デジタル、イノベーションでグローバルな成長を加速する」ことをメッセージとして提示。知財活動でも、これを支援・促進するために2022年5月より、元Schneider Electric社で知財部トップを務めていたスティーブン・マネッタ氏をCIPO(知的財産最高責任者)として迎え、CIPOオフィスの主導の下で知財活動を進化・調和させるための取り組みを推進している。
「従来は『日立の知財をどうグローバル化していくか』という観点にとどまっていたが、マネッタ氏のCIPO着任によって観点の視座が一段上がった。今ではグループ全体での知財を統合し、共通の方向性を持った全社的な活動へと大きく変化しつつある」と語る比嘉氏。とはいえ、とても困難な道程であることは間違いないだろう。実際、比嘉氏もCIPOオフィスでの議論に参加しているが、海外との知財に向き合う文化の違いを痛感しているところだという。