三井化学が取り組むポートフォリオ変革
三井化学は総合化学メーカーとして、4つの分野で事業を展開している。ベーシック&グリーン マテリアルズでは石化原料や基礎化学品を、ライフ&ヘルスケア ソリューションではヘルスケア関連製品を手がけ、ICTソリューションでは機能性ポリマーなどスマホ・半導体関連製品を提供し、モビリティ ソリューションではエラストマーなど自動車向け製品を提供している。
三井化学は、現行の2030長期経営計画「VISION 2030」において、ポートフォリオ変革を進めている。VISION 2030では、従来の素材提供型ビジネスからソリューションビジネスへの転換と、2030年の営業利益2,500億円という目標を掲げている。たとえば、介護士の業務負担を大幅に低減できる見守りセンサ技術、太陽光発電の効率を向上させるコンサルティングサービスなどが、新しい製品・サービスとして挙げられている。
VISION 2030において三井化学は、「変化をリードし、サステナブルな未来に貢献するグローバル・ソリューション・パートナー」となることを目指している。そのための基本戦略として
- 事業ポートフォリオ変革の追求
- ソリューション型ビジネスモデルの構築
- サーキュラーエコノミーへの対応強化
- 経営基盤・事業基盤の変革加速
- DXを通じた企業変革
という5つを掲げている。これら5つの基本戦略を実現するための基礎・基盤となるのがDXであると三瓶氏は主張する。
DX推進に向けたビジョンと4つの基本戦略
DX推進に向けたビジョンとして三井化学は「MCI DX Vision」を掲げている。このビジョンでは、MCI(Mitsui Chemicals, Inc.)グループ全メンバーによるデータとデジタル技術の活用を通じ、社会課題解決のため、革新的な製品やサービス、ビジネスモデルをアジャイルに創出、企業・業界・社会の変革をリードすることを目指しているという。ビジョンを実現するための基本戦略は「1.デジタルリテラシーの向上」「2.業務変革の推進」「3.開発力の強化」「4.事業モデルの変革」の4つで、1つ目ではデジタル・スキルの教育の徹底、2つ目ではデータ活用の積極的な開拓、3つ目ではトレンド・ニーズの深堀、4つ目では素材提供型ビジネスから社会課題視点のビジネスへ転換を進めるのだと話す。
こうした目標を実現すべく、部門横断型のDX推進組織として2022年4月に「DX推進本部」が設立された。同本部のミッションは、Cross Functional Discipline(CFD)、つまり全社横串でのDX推進規律の徹底であると三瓶氏は強調する。各事業本部からDX推進のリーダーとして「DXチャンピオン」を選出し、DXチャンピオンが責任を持って各部門でDX推進を行う。DXチャンピオンはデジタルだけでなく各事業本部の業務にも精通した人材である。
三井化学のDX推進にあたって三瓶氏はまず、他社事例に学ぶことから始めたという。200以上の事例を収集し、DX事例集であるリファレンスブックを作成した。リファレンスブックは統一フォーマットで記載されており、課題・目標・効果などが一目でわかるようになっている。当初はこのフォーマットを、DXチャンピオンを通じて各部門へ配布したが、読み手にDXリテラシーが備わっていなかったこともあり思うようにDXが進まなかったと三瓶氏は振り返る。
リテラシーに関する課題を解決するため、三瓶氏はDX教育に着手した。まず教育用ロードマップを作成し、4段階のレベルを定義したうえで各レベルにあった教育内容とテストを作成した。レベル0はデータ活用の重要性を理解できるレベルであり、全社員を対象としたe-learningで教育を行った。レベル1は上位者の指示に基づいてデータ分析作業を実施できるレベル、レベル2は独力でデータ分析作業を実行できる水準にある。レベル3に関しては、“業界の達人”ともいえる領域であるそうだ。何よりも重要な点は、各レベルにおいて何を習得すべきかを“見える化”することにあると三瓶氏は語る。