コロナ禍を機に米国で「未来を描く人材」の需要が高騰
ニューヨークのマンハッタンに位置し、100年以上の歴史を持つアートとデザインの名門校・パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)で、岩渕氏はスペキュラティブデザインの提唱者であるダン&レイビーに師事。そこで岩渕氏は「Not Here,Not Now」というコンセプトに特に影響を受けたという。
「『Not Here,Not Now』では、今、ここではない、異なる世界線のモノや概念を提示することで、私たちの『現実』を支配する常識や価値観を揺さぶることに焦点を当てます。既存のデザインは、特定の理想や希望だけを『現実的』と位置付け、それ以外を『非現実的』とレッテルを貼って、それらが実現されることはありません。アイデア段階で『非現実的』とされ廃棄されたもののなかにこそ、常識を変えるような重要なエッセンスが眠っているのではないか、というのがダン&レイビーの考えです。その過程で、膨大なデザイナーのクリエイティビティも抑圧されているのではないか、という問題提起をしています。そこで、『Not Here,Not Now』では『現実的か非現実的か』『美しいか美しくないか』『倫理的か非倫理的か』といった現在の価値観による判断を保留し、真に自由な創造力でアイデアを形にすることを学び、それを社会人として実践にも活かしたいと思いました」
2020年にパーソンズ美術大学を修了した岩渕氏は、同大学での学びを生かせる職に就こうと、米国で転職活動を始める。しかし、当時の転職市場ではGAFAのプロダクトデザイナーやUXデザイナーなど、『現実的』なデザインを求める募集が中心であり、希望に叶う職種は皆無に等しかった。