「飛び地」の新規事業の立ち上げと評価方法
——前編では、中長期の事業計画を立てる際に「新規製品×新規市場」を狙う必然性を筋道立てて説明し、関係者のマインドをセットしたというお話を伺いました。実際の新規事業開発はどのように行われていますか。投資やM&Aも行っているということでしたが、自社内での開発もあるのでしょうか。
新規事業創出の場合は自社開発技術で展開する場合もありますが、「ないもの」かつ「自社で開発しても差別化にはならないもの」は、積極的にオープンイノベーションでライセンシングやM&A、出資などの手段を活用して外から調達しています。
顕著な例としては、2021年に設立した横河バイオフロンティアがあります。横河電機100%の子会社ですが、はじめて自社で生物由来の素材を開発・製造・販売する会社となりました。まずはセルロースナノファイバー(CNF)を軸に事業を展開しますが、当社にはCNFに関する技術は手元にありませんでした。自前の技術ではなく、完全に100%オープンイノベーションで立ち上げたことになります。
——他に新規事業開発の活動はどのようなものがありますか。
横河バイオフロンティアの前だと、2018年にインダストリアルIoT事業のためにアムニモ(設立当時横河電機100%出資)を立ち上げました。直近では、2023年春に大塚化学様とのJV(ジョイント・ベンチャー)企業として、中分子医薬関連の受託研究開発製造事業を行う、シンクレストを設立しました。
——新規事業は既存事業とは別の尺度で評価する必要がありますが、どのように評価していますか。
「新規製品×既存市場」や「既存製品×新規市場」という既存事業の範疇で連続性のあるものについては、パフォーマンスを「NPV(Net Present Value)」で測ることが適していますが、「新規製品×新規市場」の場合は、NPVによる測定は決して適切ではないと考えています。NPVでの評価では、経営会議で「これはアウトだからやめよう」という話になるんです。インチなのかセンチメートルなのか寸なのか、どの目盛りのモノサシを使って計測することがよいのか。慎重に選ぶ必要があるのではないでしょうか。
例えば「新×新」の場合、既存企業でもここはスタートアップのような事業だと捉える必要があります。モノサシとしては、金融工学で用いられるオプションの価格決定理論を応用したプロジェクト評価方法である「ROV(Real Option Value)」などが有効だと考えています。出資・投資やM&A、R&Dなども同じ性質を持ち、どのメジャーで成果を測るのがよいか精査し、正しい判断と経営の意思決定をすべきです。