お客さま起点を導くデザインの力で組織の壁を乗り越え、「Olive」を開発
岩嵜博論氏(以下、敬称略):前編では、SMBC Design Teamの組織概要やデザインを普及するための活動についてお聞きしました。後編では、SMBC Design Teamが生み出したサービスや成果をお聞きしたいのですが、個人的に興味があるのがOliveです。Oliveは銀行口座やクレジットカードなど、複数の金融サービスを一括に管理できるサービスですが、そのなかではSMBCグループだけでなく、SBI証券など他社とも連携しています。
中村裕信氏(以下、敬称略): SMBCグループだけでなく、さまざまなパートナーとエンティティを越えて連携し、お客様に優れた顧客体験を提供したいとわれわれは考えていました。そのため開発にあたっては、従来の組織の枠組みを取り払い、アジャイルなプロジェクト運営やチームアップを意識しています。エンティティを越えた連携には壁も少なくありませんでしたが、お客さま起点で、金融サービスのニュースタンダードを創るとの想いを胸にトップが強いリーダーシップを発揮してくれたこともあり、そうした体制を築くことができました。
岩嵜:Oliveのプロジェクトでは、SMBC Design Teamのデザイナーはどのような役割を果たしたのでしょう。
金澤洋氏(以下、敬称略):企画段階から参画し、前編でお話ししたカスタマージャーニーマップを策定しながら、サービスのあるべき姿を検討しました。Oliveの特徴は非常に細かくターゲットのペルソナを設定している点です。多くの場合、銀行のサービスは、年齢や属性を問わず幅広い層のお客様にご利用いただく前提で開発するのですが、Oliveについてはターゲットを絞り込み、サービスの商品性を厳密に検討しながら開発しています。
岩嵜:そうした構想やコンセプトを、どのように他社の担当者と共有しましたか。
中村:柔軟にチームを編成しながら、議論を重ねていったといった感じでしょうか。サービス開発までの道のりは、地道な作業の繰り返しでした。
岩嵜:Oliveはさまざまなサービスが統合されていて、ユーザー目線では非常に使い勝手がよく、自然な顧客体験を提供してくれます。それを複雑で規制の多い金融業界のプレイヤー同士が連携して開発したのですから驚きです。通常であれば、プロジェクトが頓挫してもおかしくないように思います。
中村:その点については、SMBC Design Teamの実績が大きかったかもしれません。2016年に初めてデザイナーを採用してから、デザインの成果を少しずつ積み重ねていたので、組織内でもデザインの効果や役割が浸透していました。そのため、Oliveのプロジェクトでも、当初から経営陣はデザインの活用に前向きでした。重要な局面でデザインを活用するには、その提案が受け入れられやすい地盤を築いておく必要があるのでしょう。そのためにも、デザイン組織は日ごろから小さな成果を積み重ね、組織内からの信頼を取り付けておくべきだと思います。