政策データダッシュボードのデザインにおける「3つの方針」
次に志水氏は、実際に公開されたダッシュボードプロジェクトの詳細の紹介へと移る。
2022年12月に最初に公開されたのはマイナンバーカードの普及状況のダッシュボードだ。マイナンバーカードに世間の注目が集まっていたタイミングでの公開となった。申請数、交付数と全人口における割合を表示しており、累計値や推移が把握できる。
保険証としての利用登録件数、公金受取口座の登録数、住民票の写しの21%がマイナンバーカードを利用してコンビニ等で行われていることなども表示される。今年2月にサービスを開始したマイナポータルの引越し手続きに関しては、8月時点で8.6%ほどだ。このように利用者の推移を月単位で確認することが可能だ。
次に紹介されたのは、子育て・介護関連の手続きオンライン化の取り組み状況のダッシュボードだ。
画面左に、全国で65.1%の自治体においてオンライン化が達成されている数字が表示されており、その詳細となる都道府県別の普及率が右に表示される。関東でいうと直観に反して東京や神奈川の数字が低いことが分かる。なお、各都道府県をクリックすると、各市区町村でどのような手続きがオンライン化されているのかが具体的に表示される。
3つ目は、昨年から実施されているアナログ規制の見直し・調査の取り組みの進捗状況を可視化したものだ。現在、9,669件の調査が終了し、改正対象外の規制が3,264件、改正が必要な規制が6,405件、見直しが完了したものが1,012件となっている。それぞれの見直し対象箇所も分類されており、それぞれ目視規制や定期検査などが何件あるかが分かる。なお、法令名を検索すると、対象の法令の内容が見られる。自治体関係者からは「自治体でも国の動向を見ながら条項の見直しをしているため、ありがたい」と評価する声が上がっているとのことだ。
こうしたダッシュボードのデザインに際しては、3つの方針があったと志水氏は語る。
1つ目の方針は、一般の人でも専門家でも分かりやすい情報設計だ。詳細なデータと同時に、全体像を把握するためのシングルナンバーを目立つように配置し、「いま、何の情報を見ているか」混乱しないような工夫が施されている。志水氏は「見るひとの頭の中にデータの地図を作る」イメージだと語る。また、無駄な装飾を省き、データとインクの比率を意識することでデザインをシンプルに保って、重要なメッセージへの注意を促している。
2つ目の方針は、ユーザビリティとウェブアクセシビリティへの配慮だ。行政のウェブサイトはパソコンよりもスマートフォンからのアクセスが圧倒的に多いにもかかわらず、かつて公開されていたPDFなどはスマートフォンでは見づらかった。現在は需要に合わせ、マルチデバイスでも比較的見やすいように公開しているほか、詳細の情報が多く、機能がリッチになっている場合は概要版を配置し、シングルナンバーだけはスマートフォンでも必ず分かるようにする形にしているという。
また、デジタル庁で公開しているデザインシステムに準拠したカラーパレットが用いられている。今後、視覚障がいの方に向けた配慮のため、コントラストをもう少し強めるべきだというフィードバックを得ており、検討していく部分だ。そして、そのような方へのアクセス手段を提供するべく、スクリーンリーダーによる読み上げ順の設定やExcelのような代替データも提供されている。画像の場合は画像の代わりとなるテキスト情報、ALT属性が入れられている。
3つ目に、誰でも作れる再現性のある設計を心がけているという。まだ公開には至っていないが、行政官やデータアナリストが、簡単にダッシュボードを制作できるような仕組みの構築も進んでいる。
表示するカラム数やカード数を任意で選択できるだけでなく、フィルタリングなどのユーザー操作を簡単に実装できるようになる予定だ。この、柔軟性のあるレイアウト構造は、担当者が内容に応じて独自に調整できるようにしつつ、全体としての見やすさや統一感を担保することが目的だ。他にも目的ごとのチャートサンプルや、デザイン・ガイドライン作りも並行して行われている。