デザインの目的は「より良くする」こと
「デザイン思考」「デザイン経営」といった言葉に代表されるように、ビジネスにおいてもデザインが活用される場面が増えている。アートディレクターおよびクリエイティブディレクターとして国内外で多数のデザイン賞を獲得してきたHAKUHODO DESIGN 代表取締役社長の永井一史氏は、ビジネスにおけるデザインの本質について、複数の視点から整理した。
永井氏はまず、アメリカ人デザイナーのヴィクター・パパネックの言葉を引用しつつ、「デザインを“望ましい方向性を規定し、それに向けて整えるプロセス”と定義すれば、ビジネス領域と接続する概念になる」と述べた。
続けて、「As-Is/To-Be」のフレームワーク内にデザインを位置付け、「現在の姿(As Is)からありたい姿(To Be)を描き、両者のギャップを埋めるために具体化すること」、すなわち「より良くすること」がデザインの目的だと話す。この点でデザインは、「誰でも取りかかることができ、どんな局面でも使える手法」になり得るといえよう。
では、デザインが立脚する思想とは何か。永井氏は2つ紹介した。1つ目に挙げたのは、「人から考える」ことだ。ビジネスシーンにおいては、サプライサイドの思考のもと、自社の持つリソースや市場を含む外部環境から逆算して商材を開発するケースが多いが、デザイナーは人、つまりユーザーの視点に立つというのが、永井氏の見方だ。
もう1つは、「美と調和を大切にする」こと。利益を立てられるという「経済性」に加え、社会的に還元できる「社会性」、ストーリーとして成立する「文化性」という3つの要素の交点に、美意識が存在することを鑑みれば、「本質的なデザインは普遍性への強い意志を有するということであり、結果的にデザインする対象に強度を持たせることが可能になる」という。
さらに永井氏は、デザインの行動的側面を、「考えのデザイン」と「カタチのデザイン」の往復運動として捉える。どんなに良く見えたアイデアも、カタチに落とした途端に破綻してしまうことは少なくないため、考えをカタチにし、フィードバックを受けてまた考え直すという作業が欠かせないという。
では、実際にデザインをビジネスに活用するには、どうすれば良いのか。