三浦氏がベトナムで現地法人7社を統括するまで
宮森千嘉子氏(以下、宮森):三谷産業さんはベトナムで真の組織文化を築いてこられて、ベトナム政府高官の方からも賞賛されたそうですね。そのお話を伺う前に、まずは三浦さん自身について少しご紹介ください。
三浦秀平氏(以下、三浦):ありがとうございます。私がベトナムと関わるようになったのは2004年のことで、すでに20年を超えています。
元々は大学で都市計画を学び、卒業後はある大手の設計事務所に入って建築の設計に携わっていました。そこでは海外の案件も多く、20代前半の時期にベトナムのプロジェクトに関わっています。それがきっかけで、2004年からJICAのベトナムでのプロジェクトに派遣されることになり、ホーチミンに来ました。2年間、現地の建設省傘下の技術短期大学で建築の技術を教えながら、ベトナムの人たちにいろいろなプロジェクトの対応を促してきました。その際に三谷産業とのご縁ができました。
それまでは私もまったく知らなかったのですが、三谷産業というのは石川県金沢市で1928年に創業した総合商社です。その三谷産業が海外で唯一積極投資しているのがベトナムでした。ちょうど今年ベトナムでの事業を始めて30年になるのですが、現在では7社の現地法人があり、2,400人の現地社員がいます。
このようにベトナムに特化しているという点に魅力を感じ、現地法人のひとつのACSD(Aureole Construction Software Development Inc.)に入社したのが2006年のことです。建築設計のサービスを行っている会社で、数年後に役員になってからは会社の既存事業はもちろん、建築に関する私の専門性も活かして事業拡大にも携わってきました。
その後、2013年に一度日本に戻り、三谷産業本社の社長室長として1年間を過ごしました。その間、社長と一緒に三谷産業本体の目線でベトナム事業の拡大を検討し、2014年に新たな会社を立ち上げて社長を務め、2016年からまたACSDの社長に戻り、そして2022年には三谷産業の海外事業担当の取締役となりました。現在はベトナムの7社をすべて統括する立場とACSDの事業統括を兼務するという形で、ベトナムに駐在しています。
ベトナム政府からも企業文化が賞賛される
宮森:三谷産業さんの事業は化学品、樹脂・エレクトロニクス、情報システム、空調設備工事、住宅設備機器、エネルギーと多岐にわたりますが、これらのほとんどをベトナムでも展開されており、各領域で現地法人を設置されています。領域の異なる7つの会社をどのようにまとめてこられたのか、お聞かせください。
三浦:三谷産業がベトナムでの事業を発展させていくのに一番重要だったのは、現地にいるベトナム人の社員たちがいかに自律的に事業を牽引できる状態であるかということです。
そのために必要なことは2点あります。1つは、親会社である三谷産業の文化の中でも譲れないところを、しっかり浸透させていくということ。もう1つは、現地のマネジメントも含めたすべての仕事の中心はベトナム人だという考え方を貫き通すことです。
宮森:それが、ベトナム政府の方からも賞賛されるような企業文化につながっているわけですよね。
三浦:そうですね。2002年から2012年まで計画投資省の大臣をされ、日越関係の発展に非常に尽力されたヴォー・ホン・フックさんという方がいらっしゃいます。そのフックさんが、今年の8月に車載向け樹脂成形品を製造する我々のADMS(Aureole unit-Devices Manufacturing Service Inc.)という会社の工場の視察に来られました。
VIPとしてお迎えし、最初は私とその会社の社長が事業紹介をしました。その後に行われた工場での視察には日本人は関与せず、その部門のリーダーを勤めるベトナム人社員たちが、自分たちの言葉で大臣に説明をしました。
ここまでは他の日系企業も同じだと思いますが、視察後に食事をしながら談話する時間があった際、我々日本人は後ろに引いて、大臣の前にはベトナム人の社員に座ってもらいました。これも我々としては非常に自然なことだったのですが、大臣はそのことにとても感動されていました。
多くの日系企業では日本人が前に出てくるが、この会社は違うと。日本人とベトナム人が対等な立場で事業を引っ張っていくというあり方を、身をもって感じられたということで、Facebookにも非常に好意的なコメントを投稿してくださいました。
宮森:素晴らしいですね。どのようにして文化を作ってこられたのでしょうか?
三浦:これはCQにも通ずることで、現地の事業の良し悪しを決めるのは現地の組織であり、社員であるということを忘れないことです。日系企業ではこの当たり前の事実を忘れ、意思疎通が難しいからと日本人の管理職だけで話を進めるようなことがよくあるのではないでしょうか。