新規事業で必要なBTCのバランスを取ったチーム作り
西谷氏はNTT東日本に新卒で入社し、5G技術を活用した新規事業の推進に携わったほか、メディアでも話題となった昆虫食事業の立ち上げや、大企業の社内起案プログラムの企画運営など、多様な形態で新規事業に関与してきた。現在は「Sun Asterisk」において、大企業の新規事業支援を行っている。
事業アイデアは洗練されるにつれて、議論が具体的になっていく。そのため、すべての新規事業に共通する0.1から1フェーズにおけるアイデアの昇華、すなわちサービスデザインの進め方が、知見として共有する価値が最も高いと同氏は語り、本講演もその部分に焦点を絞って進行した。
サービスの強さは「考えること」と「創ること」の反復回数とその速度に比例する、と同氏は経験のなかで感じてきたという。しかし大企業では、小さく試すことが難しく、市場投入までのプロセスが長くなる傾向がある。そのため、プロジェクト初期に「何を考えるべきか」「どこまで考えるべきか」が明確になっていることが、スピーディな事業創出に繋がるとした。
「新規事業の成功には再現性が必要」と同氏は強調する。Sun Asteriskは創業11年目にして、500社以上のクライアントとともに850を超えるプロダクトをリリースしている。講演では、そのなかから見出された、チーム論と方法論が紹介された。
まず、新規事業開発におけるチームについては、事業の観点から考える「ビジネス(B)」、技術の観点から考える「テック(T)」、顧客の観点から考える「クリエイティブ(C)」の3つの人材が重要であり、これらをBTCと呼んでいると同氏は説明する。この3つの視点のバランスが取れていないと、議論が抜け落ちてしまうことがあるという。そのため、BTCそれぞれの観点がカバーできるチームの構成が重要であるという。
「右脳的な革新」と「左脳的な確証」の両立が重要
次に西谷氏は、Sun Asteriskでの新規事業開発の方法論について解説する。
新規事業の成立条件は「右脳的な確信」と「左脳的な確証」の共存であるという。「右脳的な確信」は「これは求められるに違いない」といった直感を指している。オーナー企業でよく見られるのは、経営者が直感的に課題とプロダクトを思いつき、それを事業化するというパターンである。このアイデアでは、具体的な顧客、いわゆる「n1顧客」がイメージできていることが多いため、小規模のビジネスとしては成功するものの、スケールしないケースが多いと西谷氏は指摘する。キャズムを超えなければ、サービスは終了してしまう。
そういったリスクを乗り越えるためには、「左脳的な確証」をも得る必要があるという。「左脳的な確証」とは、事業の魅力や競争力、収益性を緻密に検証することを意味する。大企業ではこちらのアプローチでの新規事業開発が多く、結果として「正しい」ものの、実際に出来上がってみると魅力がないプロダクトが生まれてしまうことが多いという。