投資家として知財情報をどう評価するのか
齋藤昭宏氏(以下、敬称略):まずは自己紹介と知財に対するお考えと取り組みをお聞かせいただきたいです。
澤嶋裕希氏(以下、敬称略):私は1987年に証券会社に入社し、約30年間、アナリストをやってきました。2017年頃から企業との対話の重要性の高まりもあり、スチュワードシップ推進部が発足。現在は経営層やIR部門のほかにも、例えばCSRやサステナビリティ推進部門などを含めて企業様との対話を重視しながら仕事をしています。
当社が今お預かりしている資産は約94兆円、そのうち投資顧問が約79兆円です。投資信託もやっておりますが、資産の8割は投資顧問です。お預かりしている資金の大半は企業年金や公的年金です。年金の運用ですから、1、2年のパフォーマンスを狙っているわけではありません。中長期、超長期の時間軸で企業様を分析させていただき、投資リターンの最大化のために競争力・成長力のある会社にウェイトを置き、投資しています。
知的資本を含む非財務情報が投資家にとってどれだけ重要かをお伝えしますと、本質的な企業の競争力を見るためには、財務情報より非財務情報の方が重要だと捉えることができます。というのは、財務情報は過去の蓄積が短期の利益とどう繋がっているか、つまり「結果」をみるようなものだからです。
知財・無形資産ガバナンスガイドライン策定の意図とは
奥田武夫氏(以下、敬称略):私は1993年にオムロンにエンジニアとして入社し、途中から知財の道に入りました。2017年には内閣府知的財産戦略局のタスクフォースに参画し、「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース 報告書 ~ 経営をデザインする ~」の策定にも従事しました。
その後2021年には政策企画調査官として内閣府に出向し、知的財産戦略推進事務局の「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)」(※現在は「Ver2.0」もリリースされている)の策定に参画しました。多くの方と議論をしながら、非常に良いガイドラインができたと思っております。
ガイドラインを作ったので、講演で様々な方にご説明さしあげているのですが、企業の皆様から「どう開示したらいいですか」とよく聞かれます。ほとんどの方が、あのガイドラインを「開示ガイドライン」だと思ってらっしゃるんですね。こういった誤解は少しずつ解けてきたのですが、今度は「企図する因果パス」はどのように見せればいいのかという質問に移行しています。
こういった悩みが生じるのは、今まで知財部門の皆さんが事業に対して知財・無形資産を活用することを組織としてもあまり求められてこなかったからだろうと捉えています。そのうえで、知財部門がどこまで本気で知財・無形資産を事業に活用していこうと思っているか、そこに課題があると感じています。