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紺野教授が東急を事例に紐解く、両利きの経営の誤解──伝統的大企業のイノベーションを阻む壁と乗り越え方

講演者:多摩大学大学大学院 紺野登氏、東急株式会社 東浦亮典氏

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東急の100年の歴史を更新する「私鉄3.0」という経営モデル

 紺野氏の問題提起を受けて、東浦氏はまず議論の前提となる東急の事業変革の歴史と近年のイノベーション事例を紹介した。

 東急の歴史は約100年前に遡る。東急の源流となる「田園都市株式会社」が設立されたのは1918年。産業革命の勃興を受けて、ロンドン郊外に誕生した自律分散型の衛星都市「レッチワース」をモデルに、日本型の「田園都市」を作ることを目的に創業された。その後、東急グループの実質的な創業者である五島慶太が参画してからは、鉄道事業と都市開発事業を中心に組織を急拡大させていった。

 このビジネスモデルを、東浦氏は「私鉄1.0」と呼ぶ。郊外を宅地開発するとともにスーパーや百貨店などの生活サービスを設置して収益を得て、さらに通勤通学の足となる鉄道を敷設して運賃収入を得るビジネスモデルだ。東浦氏によれば、「私鉄1.0」は20世紀に普及した私鉄経営の標準的なモデルだという。

 そして、それをよりアップデートしたのが「私鉄2.0」だ。「私鉄1.0」のビジネスモデルの成功により、沿線の起点となるターミナル駅は巨大な商業都市に成長した。この果実を沿線全体に行き渡らせるため、都市と郊外の中間に職住近接の新たなまちを作って需要を喚起し、近い将来鉄道事業は乗客が比較的短い距離を行き来する「交流鉄道」の役割にソフトチェンジを図る。

 具体的なケースとして、東浦氏は二子玉川駅、自由が丘駅などの再開発プロジェクトを挙げた。「私鉄2.0」は、人口減少により沿線地域の通勤通学人口が減っていく時代にフィットしたビジネスモデルであり、事実それぞれのプロジェクトで一定以上の収益が得られている。

画像を説明するテキストなくても可
資料提供:東浦亮典氏/クリックすると拡大します

 しかし、こうした状況を一変させる事態が起こる。コロナ禍だ。外出自粛やリモートワークの普及に伴い、鉄道事業の乗降客数は大幅に下落。2021年の決算では過去最大の赤字を記録するなど、東急は危機的な経営状況に陥った。こうしたなかで、視野に入ってきたのが、既存のビジネスモデルをさらにアップデートした「私鉄3.0」だ。「私鉄3.0」の提唱者である東浦氏は、日本におけるまちづくりの課題に触れながら、その有効性を強調する。

「従来、日本の私鉄が展開してきたのは『職』と『住』を分離した二極化・機能分担型のまちづくりでした。そのため、日本では『都心で働き、郊外に住む』というライフスタイルが定着していました。

 しかし、人口減少がますます進み、必ずしも通勤を必要としない働き方が広がる時代においては、そうしたまちづくりはサステナブルではありません。そこで、現在、私たちが進めているのが自律分散型のまちづくりです。『職』『住』『遊』を分離せずに、それぞれのまちに配置することで、都心に従属しない自律した郊外都市を作ります。さらに、これらの都市をデジタルのプラットフォームで繋ぎ、沿線住民の細やかなニーズに対応するサービスを提供するのが『私鉄3.0』のビジネスモデルです」(東浦氏)

画像を説明するテキストなくても可
資料提供:東浦亮典氏/クリックすると拡大します

 東浦氏が「私鉄3.0」のビジネスモデルを提唱した書籍を出版したのは2018年。コロナ禍に先駆けること2年間のことだ。「私鉄3.0」の考え方は、東浦氏が長年東急沿線での都市開発実務を担う中で着想した近未来コンセプトであって、社内議論を経て公式に発表されたものではない。一部社内から批判的な意見がなかったわけではないが、様々な議論を経て2019年度に外部発表した「長期経営構想」の中に「City as a Service」という概念で表現されるに至った。

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東急が「組織的なイノベーション」を実現できる理由

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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