デロイト トーマツは、「アジアパシフィックにおける生成AI」について、ビジネスパーソン約9,000人、学生2,900人の合計約11,900人を対象とした調査を行った。
同調査では、AIを活用したテクノロジーの時代に育ってきた子供から24歳までを「AI世代」と定義。この世代は、子供の頃から生活のさまざまな場面でAIを体験して育ってきたため、デジタル技術を自在に扱い、AIを使いこなせる能力を有しているという。
アジアパシフィック全体では、学生やビジネスパーソンが生成AI活用を牽引している
アジアパシフィックの学生やビジネスパーソンの間では、大学生の81%、ビジネスパーソンの62%が生成AIを利用していることが明らかになった。ビジネスパーソンの43%は、業務目的で生成AIを利用している。AI世代のほうが生成AIを利用している傾向が高く、年齢の高いビジネスパーソンのほぼ2倍になった。
アジアパシフィックには人口が増加している国・地域もあり、生成AIを日常的に利用する見込みユーザーの割合は今後5年間で3倍になるだろうと同社は述べている。
業務目的で生成AIを利用しているビジネスパーソンの半数は、「自分が生成AIを利用していることを経営陣は把握していない」と考えているという。企業は、テクノロジーベンダーや専用プラットフォームが開発した安全性の高いアプリケーションを導入しようと考えているが、実際には自社の従業員に後れを取っており、巻き返していく必要があると同社は述べている。
新興国の生成AIの普及率は、先進国を30%上回る
今までの技術革新では、先進国が「アーリーアダプター(初期採用者)」であったが、生成AIでは新興国のほうが速いスピードで生成AIを受け入れている。
新興国(中国、インド、東南アジア)の生成AIユーザーの割合は、先進国(日本、台湾、シンガポール、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)を30%上回っている。さらに見ると、生成AIを利用したことのあるインドの学生やビジネスパーソンは、アジアパシフィック全体の学生やビジネスパーソンを30%上回っている。日常的に利用している人の割合も、インド(調査対象の32%)や東南アジア(同19%)がオーストラリア(同8%)や日本(同4%)を上回っていた。
この利用率のギャップは、利用率が高い地域では全人口に占める「デジタルネイティブ」人口の割合が高いことが1つの要因であるという。インドの調査対象者のほぼ半数(46%)が18歳から35歳だったが、この年齢層に入る日本の調査対象者は30%であった。
新興国では、ビジネスパーソンも生成AIを熱心に取り入れようとしている。新興国のビジネスパーソンと学生の半数以上(53%)は、生成AIテクノロジーに対して基本的に高い期待をもっているが、先進国の学生やビジネスパーソンで同じように感じているのは4分の1を下回った(23%)。対照的に、先進国のビジネスパーソンの3分の1以上(36%)は、生成AIに対して基本的に不安を感じており、新興国ではこの割合は12%にとどまっている。
重要な点として、新興国におけるAI世代は、生成AIの急激な登場に対してより積極的にアクションを取っていることがわかった。そのアクションとは、生成AIの基本について調べる、プログラミングスキルを磨く、生成AIについて他人と協働する、正式な学習を進めるといったことである。中国では、学生とビジネスパーソンの71%が少なくとも1つこういったアクションを取っており、アジアパシフィック全体の平均49%、オーストラリアの平均31%を上回っている。
生成AIによって、毎週110億時間以上の労働時間に影響
アジアパシフィック全体では、生成AIによって毎週、勤務時間の16%(110億時間近く)が影響を受けると同社は試算している。AIによってタスクが自動化され人間が関与する必要がなくなる場合や、タスクそのものの幅が広がるため人間がタスクを完了するためにAIの利用が必要になる場合などが考えられるという。
生成AIによる自分の業務への影響をビジネスパーソンに質問したところ、今後5年間で自分の現在の業務の61%が影響を受けると回答した。仕事全体は今後も増えていくおそれがあり、職業や業界によっては大きな変化に直面したり、移行にあたってサポートが必要になったりするという。
アジアパシフィックにおける生成AIの影響をもっと詳しく説明するために、Deloitte Access Economicsは18の業界について、生成AIのインパクトと、それぞれの業界が影響を受けるまでの期間(「導火線」の長さ)という観点からマッピングした。期間の決定にあたっては、今回の調査においてどの業界が生成AIのアーリーアダプターの特徴を見せているか検討。インパクトの試算には、それぞれの業界においてAIを応用し得る10の分野の業務時間を調べた。
「導火線が短く、衝撃が大きい」シナリオに入った業界は金融、情報通信技術(ICT)とメディア、プロフェッショナルサービス、教育の4つであった。こういった業界の重要性は各国ごとに異なるものの、アジアパシフィック全体で平均すると、この4業界で経済の5分の1を占める。6プロフェッショナルサービス、金融、ICTといったインパクトの大きい業界に向けて経済活動がシフトしていく国もあることから、この割合は今後増加していくと考えられる。
また、生成AIを利用している学生の40%が、この4つの業界のいずれかでキャリアをスタートさせたいと考えているため、トランスフォーメーションも加速することになるという。なお、知識集約型の業界と比較すると、農業や建設、輸送や卸売り・小売りといった労働集約型の業界では、長期にわたるディスラプションは比較的小さくなる。
生成AIの利用によって、新たなスキルを習得する時間が生まれる
生成AIユーザーの80%が、タスク完了にかかる時間がスピードアップしたと回答した。平均すると、生成AIを日常的に利用するユーザーは1週間で約6.3時間を節約している。ビジネスパーソンは生成AI利用によって浮いた時間で、54%が他のタスクを完了させると回答し、45%が追加的な学習やスキル習得に時間を投資していると回答した。
また、新たな情報を学ぶ能力も生成AIによって改善されている。今回の生成AI調査では次の回答を得た。
- 生成AIユーザーの71%が生成AIによって新しいアイデアを生み出す能力が高まったと回答
- 67%が新たなスキルを習得する能力が高まったと回答
- 73%が生成AIによってアウトプットの質が高まったと回答
- 65%が生成AIによってアウトプットの正確さが高まったと回答
スキル構築を向上させたビジネスパーソンの40%近くが、スキルの習熟にかかる時間が生成AIによって半分になったと考えている。
生成AIによって仕事や学習の満足度が高まる
生成AIによる大幅な時間の節約によって、ルーティーン業務や反復的なタスクを効率的に終わらせて、クリティカルかつクリエイティブな思考が求められる付加価値の高いタスクに集中していけるようになるという。
今回の調査では、時間を節約できた人の41%がワークライフバランスを改善できたと考えていることが分かった。クリエイティブな思考など付加価値の高いタスクに割く時間が増えると、仕事が楽しく感じられるという。生成AIユーザーは、自分の仕事または勉強の性質が向上し(81%)、満足度が高まった(67%)と考えている。
また、生成AIは個別コーチングや相手にあわせたコミュニケーションをサポートできる。今回の調査では、コーチングやメンタリングなどにおいて、生成AIテクノロジーを使うことでチームメンバーや同僚をサポートしやすくなった、という点に同意した生成AIユーザーは74%に上った。
従業員の4分の3が、自社は生成AIの導入に遅れていると考える
従業員に対して、生成AI利用の成熟度に関して自社がラガード(遅滞層)、レイトマジョリティ(後期追随者)、アーリーマジョリティ(前期多数派)、アーリーアダプター(初期採用層)、イノベーター(革新層)のどのグループに属していると考えるか質問した。自分の会社がアーリーアダプターまたはイノベーターであると考えている従業員は29%にとどまり、4分の3の企業には大きな改善の余地があることが明らかになった。
さらに、従業員から見てイノベーターまたはアーリーアダプターになりそうな企業の割合は、今後5年間で38%しか増加しないという。
ビジネスパーソンは業務目的での生成AI利用に付随する、主要なリスクを挙げている。具体的には、85%の人が生成AIの利用が個人情報や機密情報の悪用につながることを懸念。悪意のあるコンテンツの作成(83%)や、法的リスクと著作権侵害(81%)を懸念している人も同程度いる結果となった。
企業経営者はこういったリスクに対応し、AIアプリケーションから得られる大きなメリットを実現できるように、従業員によるAIの活用を全面的に後押ししていく必要がある。生成AIを利用しないという大きなリスクもあるが、より長期的には、自社の事業や業界全体で生成AIを利用しようとしない企業は、競合他社に取り残されるおそれがあると同社は述べている。
企業は生成AIの取り込みにさらなる努力が必要
業務目的で生成AIを利用しているビジネスパーソンが43%存在している一方で、経営層の29%は仕事の場における生成AIの急激な拡大に対応する方策を認識していない。アクションが欠如しているか、または、幹部と現場の間でこの重要な動向に関してコミュニケーションの断絶があるか、そのどちらかを示しているという。
アジアパシフィックのビジネスパーソンの22%が、生成AIの利用を禁止または制限している企業で働いている。しかし、生成AIを利用したことがあるビジネスパーソンは全体で62%だが、生成AIが禁止または制限されている企業の従業員ではこの割合が76%となった。
一方、従業員の生成AIの利用を後押しする企業も多数存在している。生成AIの登場への企業の対応策として一番多いのは、従業員に話をする(企業によるこのアクションを認識している従業員は42%)、業務中の学習を推奨する(同39%)、生成AIの限界について話し合う(同35%)となった。生成AIに関する正式なトレーニングを受けたことのあるビジネスパーソンは33%にとどまっている。その内、35%がトレーニングに不満であったと回答した。
デロイト トーマツによる生成AI調査
- 調査期間:2024年2月~3月
- 対象国・地域:オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポール、台湾、韓国、ニュージーランド、東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)の13ヵ国・地域
- 対象人数:大学生2,903人、ビジネスパーソン9,042人
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