富士通の挑戦文化を支える「FIC」の役割
イノベーション: 続いて、FICの具体的な活動内容についてお伺いしていきます。
斉藤:FICでは、「挑戦が当たり前の企業文化」を目指し、アントレプレナーシップの育成と新規事業創出に注力しています。
イノベーション:富士通が率先して変革を進めなければ、顧客や社会の変革支援は実現できない。そのため、FICが設計されたということですね。
殿村:その通りです。FICの「サーキット」には、新規事業で遭遇しがちな様々な障壁を取り除き、社内外のプロ達がピットクルーのようにドライバー(起案者)を支援し、挑戦の場を提供する意図が込められています。さらに、ドライバーだけでなく観客や支援者も巻き込み、より広範な応援を得られるようなプログラムやコンテンツを考えています。
イノベーション:観客まで巻き込むという視点は、共感を生む上で重要ですね。では、FICのプログラムの構成についても教えてください。
殿村:FICには「Ignition」と「Challenge」という2つのフェーズがあります。「Ignition」は、新規事業の基礎を学びながらアイデア創出や仲間作りを進める“学びの場”で、基本的に全社員が自由に参加できるオープンプログラムです。たとえば、アントレプレナーシップ教育の最高峰である米国のバブソン大学から山川恭弘准教授を招き、「失敗力」や自ら行動するマインドセットを育てる講座が行われています。このプログラムは2024年11月で7期目に入り、既に1,000名を超える社員が参加しています。
イノベーション:実際に参加した社員から、「挑戦したい」という気持ちが高まるとの声をよく聞きますね。
殿村:そうなんです。受講生の多くが、山川先生の講座で刺激を受け、行動を起こすようになります。実践の場である「Challenge」では、審査を通過した社員が6ヵ月間、100%専念して新規事業を進めることが可能です。ここでは、社外の投資家からも認められるレベルの事業を目指し、スペシャリストの支援を受けながら実践的な活動を行います。
そして、事業が一定の成長ステージに達すると、最終的には「事業部での事業化」「出向起業」「富士通ローンチパッドでの事業化」という3つの選択肢に進めるようになります。富士通ローンチパッドは2022年に設立した富士通の100%出資子会社で、迅速な意思決定を可能にし、新規事業を加速する出島的役割を果たしています。
イノベーション:そうした出島組織の支援を受けて、スピード感を持って事業化を図れるのは、富士通ならではの強みですね。他にもFIC独自の特徴はありますか?
殿村:FICの特徴の1つに、他社との共創が顕著な点があります。社内起業プログラムを持つ企業は多いのですが、課題感を共有する企業も増えています。そのため、富士通は他社と連携し、コンソーシアムを結成して相互の学びを促進しています。
また、年に一度のハッカソン「FUJI HACK」も、他社との協働を深める重要な取り組みです。先日開催した際には、富士通グループ以外からも60社以上、170名が参加し、アイデア創出やプロト制作などの共創を活性化させました。外部の視点を取り入れながら価値ある事業創出を目指すイベントです。
イノベーション:私もそのハッカソンに参加しましたが、会場となった「Tokyo Innovation Base」には予想以上に人が集まりすぎて、電力供給が一時不安定になり、プロジェクターが止まってしまうほどの熱気でした。あらためて、富士通の共創推進力を感じましたね。