KPMGコンサルティングは、地政学リスクの高まりやテクノロジーの進化によるプロセスの自動化など調達部門を取り巻く環境が激しく変化する中、今後の調達部門に期待される役割や機能について解説したレポート「Future of procurement これからの調達」(日本語版)を発表した。
同レポートは、KPMGインターナショナルが小売り・製造・テクノロジー・エネルギーなど、世界のさまざまな業界の調達部門の上級管理職者400名を対象に行った「KPMG 2023 Global Procurement Survey」の調査結果を基に、調達部門に影響を及ぼす要因として「地政学リスク」「テクノロジー」「ESG(環境・社会・ガバナンス)」「コスト」「雇用」の5つの観点から解説するとともに、その対応に不可欠な要素を、KPMGが支援した企業のケーススタディを交え考察したもの。
調達部門に影響を及ぼす5つの要因
地政学リスクとグローバルネットワークの課題
米国と中国のデカップリングをはじめ紛争や政情の不安定化など、調達部門は不確実な地政学リスクに直面しているという。調査回答者の77%が、外部の危機的な課題の1つとして「供給混乱のリスク」を挙げている。
さまざまな外部要因によってサプライチェーンのレジリエンスは試練にさらされており、企業は商品や部材の不足と価格高騰のリスクを低減するため、調達戦略の再考を強いられているという。
急速に進歩するテクノロジー
今後12〜18ヵ月で調達業務に最も大きな影響を及ぼすテクノロジーとして、「生成AI」(29.3%)と「予測型アナリティクス」(22.8%)が上位に挙げられ、「RPA(ロボティックプロセスオートメーション)」は12.0%にとどまった。
AIは情報を高速で処理できるため、従来は人手によって遂行されていた多くのタスクが代替され、調達部門の負荷軽減に寄与すると考えられるとしている。
規制と戦略の両面におけるサステナビリティとESGの重要性の高まり
欧州をはじめとした一部の地域では、企業はますます厳格化する規制要件と報告要件の影響を受け始めており、調査回答者の66%が、「今後3~5年のうちに、規制とESGに対する要求の拡大が戦略的調達に多大な影響を及ぼしていく」と指摘。
循環経済という理念が定着していくにつれて、調達部門は循環型の開発において、製品設計の支援から調達活動まで極めて重要な役割を担っていく可能性があるという。
コストの高騰とインフレーション
調達部門にとって外部要因による課題として、「インフレ圧力とコモディティ価格の上昇」が83%で第1位に挙げられた。インフレが調達業務そのものを変化させることは考えにくいものの、インフレによって仕事の負荷が増大し、さらに、コストをより効果的に管理する必要性が高まると考えるという。
また、ミッションの第1位は「コスト削減/コスト回避」(91%)となり、不安定な環境では限られた財務資源から最大限の価値を生み出す必要があるため、予算・契約管理を継続的に強化していくことが不可欠だとしている。
雇用のミスマッチ拡大
調査からは、多くの企業の調達部門においても人材ギャップを埋めることに苦慮していることが明らかになった。
「自社が契約ライフサイクル管理のための高い契約分析能力を保持している」と考えている回答者はわずか34%にとどまり、調達部門における高スキルの専門家の必要性を浮き彫りにした。
生成AIなどの最新テクノロジーを使いこなす、デジタルスキルに秀でた未来の労働力が可及的速やかに必要となっているという。
戦略の遂行に不可欠な要素
レジリエントなグローバルフットプリント(世界的拠点網)の構築
「今後3〜5年のうちに供給源のオフショア化またはニアショア化を計画中または開始する見込みである」とした回答者はわずか32%にとどまった。
企業はサプライヤーのアライアンスエコシステムを活用してよりリスクに対する理解を深め、サプライチェーンへの圧力にも耐え得る柔軟な関係性を構築する必要があるという。
冗長性の構築と定期的なリスクアセスメントを通じて、自社に影響する地政学リスクとグローバルネットワークの課題に対処し、レジリエンスを高められるとしている。
ビッグデータと生成AIの組み込みによる自動化の推進
多くの企業が、AI主導のテクノロジーをどのように統一的な調達アーキテクチャの中に組み込むべきか検討を始めているという。
60%の回答者が、今後12〜18ヵ月のうちにテクノロジーソリューションやデータアナリティクスソリューションの導入を検討しており、70%の回答者が、生成AIのような先端テクノロジーの導入を進めている。
調達部門は、(構造化と非構造化の両方の)データ処理と分析、適切なインサイトの創出をスピードアップすることで、イノベーションを推進し、生産性と意思決定を改善できるとしている。
サステナビリティとESGへの取り組み方針の再確認
調査回答者の多くが、「ESGに関するケイパビリティを開発することが今後3~5年の優先課題である」と述べ、52%の回答者が、今後1~3年にわたる持続可能なサプライチェーンへの投資を方向付けるロードマップを策定している。
調達業務は、即応性と透明性をより高めることによって、増大する規制と市場の圧力に対処しながら持続可能な調達活動を実践し、実証できるという。
調達部門は、リスクやコンプライアンス、法務、サステナビリティなど他の部門との協力関係を強化することでタイムリーな最新情報をサプライヤーから入手しステークホルダーに助言を提供することで、絶えず変化する規制に対するコンプライアンスの維持と適切な対応を支援できるとしている。
継続的なパフォーマンス改善の推進、およびデータアナリティクスの活用
現代の調達部門は、コスト、サービスレベル、運転資金を最適化し、カテゴリー戦略を見直すことで、データアナリティクスの力を活用して効率性とパフォーマンスを向上させる必要があるという。
調査回答者の多くが、「データアナリティクス分野のテクノロジーを導入することを今後12~18ヵ月で最も重要な活動」としており、70%の回答者が、「予測型アナリティクスを今後1~3年にわたって調達業務に影響を及ぼす非常に重要なテクノロジー動向の1つ」とみなしている。
未来の労働力の構築・育成および定着
調達部門は、AIの力を活かした新しいオペレーションモデルを定義し、AIがどのように既存スキルを補完できるかを明らかにしたうえで、手作業のタスクを減らし、生産性を向上させる必要があるという。
調査回答者の70%が、「サプライヤーマネジメントの能力に投資してその向上を図るための1~3年間のロードマップをすでに策定している」と回答しており、人材の獲得に向けて高等教育機関との連携を進めるとともに、調達部門は適応力、アジリティ、テクノロジー能力が高いチームを中心として構築される必要があるとしている。
今後の調達部門に期待される役割と機能
調達部門は、イノベーション、サステナビリティ、戦略的パートナーシップを先導することでビジネスの成長とレジリエンスを推進する「戦略的インフルエンサー」と、自動化とAIを通じて業務効率とコスト削減に注力する「高度に自動化されたプロセス」としての役割や機能が求められているという。
自動化がさまざまな調達プロセスにおいて広く定着するにつれ、RPAやAIなどのテクノロジーを活用したタッチレスなオペレーションの可能性が注目されるなか、人によるモニタリングやマネジメントも依然として非常に重要であり、市場からのシグナルを解釈し、調達活動をより幅広い戦略目標や持続可能な目標と整合させるためには、人的管理が不可欠だと同社は述べている。
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