イノベーションとは価値を実現もしくは再配分するもの
ISO 56000シリーズには、イノベーション・マネジメントなどの用語や原則などを定義した「ISO 56000」がある。イノベーション・マネジメントシステムに関して、今回新しく発行された「ISO 56001」は、認証規格であり「〜しなければならない」を要求するものだ。2019年から既に存在する「ISO 56002」では、こちらはガイダンス企画として「〜するべき」と推奨事項を提示している(「ISO 56002」が企業のIMSの実践を促し、「ISO 56001」がそのIMSを認証するという関係になる)。
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現在、アセスメント(評価)のための「IMA:Innovation Management Assessment」規格も開発中だ。これは、「自社にはイノベーション能力は備わっているのか、どの程度の評価なのか」を把握するものだ。求める水準とのギャップや、現状の評価を行うための指針だ。そのためのハンドブックも開発されている。これらはISO 56000シリーズを単なるテキストで学ぶ座学から実用的で実行可能なものにするためのツールとなると、カールソン氏は説明する。
カールソン氏は、このISO 56000シリーズで特筆すべき点を紹介した。まず重要なのは、イノベーションの定義である。イノベーションと銘打つ会議に出席した際に、参加者のイノベーションという言葉から考えるものが異なって、話が噛み合わなくなったという経験を持つ人は多いだろう。カールソン氏たちは、この定義について多くの議論を重ね、最終的に、以下のような定義に落ち着いた。
「イノベーションとは、『新しく生み出されたか更新されたもので、価値を実現もしくは再配分するもの』(Innovation is a new or changed entity realizing or redistributing value.)を指す」
ここで重要なのは2点だ。1つ目は、何らかの形で「新しい」ものであること。2つ目は、何らかの形で「価値を実現または再配分させる」ものであること。この2つの条件を満たすものがイノベーションである。
「価値の再配分」は重要なポイントだ。破壊的イノベーションについてよく話題になるが、大きな影響をもたらすイノベーションは、従来の支配的領域とは異なる箇所に価値が移動することで起こる。バリューチェーンの中で価値が移動する際に、破壊的イノベーションが生じることがあるのだ。
イノベーションの側面をすべて包含しつつ、オープンで包括的なイノベーションの定義を採用したため、ISO 56000シリーズは製品やサービスのイノベーションだけでなく、プロセスイノベーション、ビジネスモデルイノベーション、社会的イノベーション、公共部門におけるイノベーションなどもカバーできるようになっている。