領域特化型のLLM活用における有効なアプローチ
続いて、登壇した4名によるトークセッションが行われた。最初に、モデレーターを務める関沢氏が、各登壇者に質問を投げかけていった。

製薬をはじめとする領域特化型のLLM活用における有効なアプローチについて聞くと、東京科学大学で独自LLMを開発する岡崎氏は「LLMの面白さは、予想外の出力が課題解決に役立つこと」と回答した。
同氏によると特化型のAI、たとえば機械翻訳においては、LLMの導入以前から精度の高いAIは登場しており、LLMを活用した機械翻訳AIが現れても、旧来からのAIのほうが精度は高いという事態が起きていたという。そんな中でLLMをあえて活用する意義を、翻訳以外のタスクも対応できる点にあると指摘。これによって想定外の応用可能性が生まれるとし、領域特化AIについては性能の向上以外の展開も含め、「長い目で見て活用に取り組むことが重要」だと話した。

関沢氏は次に、「医療での生成AI活用にあたって、最も大きな課題は何か」と国立がん研究センター研究所で医療AIの開発に取り組む浜本氏に質問。同氏はこれに「開発環境と運用環境が異なることで生じる“ドメインシフト”の問題が特に大きい」と答え、次のように説明した。
「たとえば東京大学、京都大学、慶應義塾大学と、それぞれに附属病院がありますが、使われている医療機器は各所で異なります。プロトコルが違うと、病態の特徴量よりも、施設ごとの特徴量の差がAIの出力結果に影響をおよぼしてしまうのです。これをどう克服するか。非常に難しい課題です」(浜本氏)
その課題解決の第一歩として、浜本氏は「大風呂敷を広げないことが大切」だと話す。AIはどこまでのことができるかを把握し、ドメインの特徴をふまえて、達成可能な臨床性能評価試験を計画する。一つひとつの活用領域を見定めながら、地道に取り組みを進めることが必要だという。
続いて人口知能学会会長の栗原氏には、「人間と生成AI、双方の強みを最大限に生かす共助の仕組みを社会でつくるために、どのような技術的なハードルがあるか」を聞いた。すると同氏は、「技術的なハードル以前に、人間が賢くなるしかない」と回答。生成AIの出力の是非を判断するためには、それを咀嚼して理解するための考える力が求められるという見解が述べられた。
生成AIによるアイデアを選別し、魂を込めるという「ヒト」の役割
保科氏には、生成AIが普及する将来に備え、ヘルスケア業界の人材に求められるスキルセット、さらに企業が取り組むべき育成戦略について関沢氏が聞いた。これに対して「人間がやるべきなのは、AIが出した結果に対して魂を込めること」と述べ、同氏は次のように説明した。
「生成AIが提案書をつくると、一定の水準のものは出てきても、それが人の心を打つものにはなっていない。研究に活用しても、AIがアイデアを出してくる中で、新規性を見出すのは人です。AIによる出力を、人がどう判断し、さらに付加価値を足すことができるか。それを考えることが、これからあらゆる職業の人材に必要になると思います」(保科氏)