CVCが目指すべきは「財務リターン」か「戦略リターン」か
渡邊氏は、「CVCや事業会社にとって、投資は目的ではなく手段」だとして、投資によって何を実現したいのかを明確にできなければ、活動の内容自体が曖昧になると警告する。では、CVCや事業会社が投資活動で目指すべきものとは一体何なのか。財務リターンか戦略リターン、あるいはそれ以外のゴールがあり得るのか。
この問いかけに対し、NTTドコモ・ベンチャーズの今井氏は、「ファンドである以上、財務リターンは前提」としつつも、「戦略リターンをより重視している」と答えた。投資先も金銭的な投資だけでなく、事業シナジーの創出を期待しているはずであり、戦略リターンを生み出すことこそがCVCの存在意義だと考えているという。
とはいえ、「その戦略リターンをどのように測るかは、永遠の課題だ」と今井氏。戦略リターンの測り方について正解はないため、そもそもどれが戦略リターンの高い案件なのか、担当者すら確信を持ちづらい。しかも投資決定を行うには、決裁に関わるメンバーの説得が必要であり、客観的な根拠が求められる。そこで、誰が見ても明らかな戦略リターンの算出方法を編み出すため、常に試行錯誤しながら戦略リターンの定義や解釈を見直していると、今井氏は苦笑する。
これを受けてTOPPANホールディングスの高橋氏も、「戦略リターンの捉え方は難しい」と同意を示す。同社もNTTドコモ・ベンチャーズと同様、財務リターンも見ているため、投資先の事業計画の蓋然性や成長戦略は必ず吟味するものの、社内メンバーの期待は戦略リターンに集まっているという。とはいえ、戦略リターンのうち、最も本質的な事業共創は、すぐに実現できるわけではない。そのため、短期的には投資先のサービスやプロダクトの拡販をサポートしたり、両社ソリューションのクロスセルを図ったりするなど、営業活動における協業から始め、事業を共に生み出す体制を段階的に作ることを意識しているという。
その過程において、中長期的に視野に入れているのが、ジョイントベンチャー設立やM&Aといった方策だ。高橋氏曰く、投資先の株を過半数取得し、TOPPANホールディングスのグループにジョインした例が、これまでに3件あるとのこと。互いのコミットメントを深めることで、事業共創へのプロセスを加速させることを狙ったものだった。これを受けてNTTドコモ・ベンチャーズの今井氏は、「グループの一員になってもらうことで、事業開発を強化するという試みは、当社でも力を入れ始めたところだ」と応じ、渡邊氏も「マイノリティーで出資した企業のうち、事業シナジーを確信した成長企業をM&Aすることは、CVCが目指すべき本来の姿だ」と頷いた。