CVCの投資活動がもたらした事業創出の具体例
ここまで、NTTドコモ・ベンチャーズとTOPPANホールディングスが、CVCをどのような経緯で設立し、どのような意識で運営しているかを見てきた。では、両社は実際の投資事例において、どのような成果を得ているのだろうか。
NTTドコモ・ベンチャーズの今井氏が具体例として挙げた投資先は、クラウドストレージサービスを開発・提供しているファイルフォース株式会社だ。「競合サービスが多数ある中で、同社サービスが中小企業向けに特化したUI・UXを磨き込んでいた点に目をつけた」と今井氏。中小企業のDX支援に乗り出しつつも、コロナ禍におけるリモートワークの浸透で、顧客ニーズにマッチしたサービスを提供できていなかったNTT東日本と、事業シナジーが見込めると考えたのだ。
投資を通じた協業の結果、ファイルフォースの中小企業に最適化した操作性と、NTTグループのセキュリティ・ネットワーク技術を組み合わせた、中小企業向けストレージサービス「コワークストレージ」が完成。今井氏によれば、2年間で2万件の契約を獲得し、今やNTT東日本の主力サービスの一つとなっているという。渡邊氏は、「大企業の巨大な顧客基盤にスタートアップのサービスをかけ合わせた、オープンイノベーションの王道的な成功例だ」と評価した。
一方、TOPPANホールディングスの高橋氏は、株式会社グラファーへの投資事例を紹介。同社は、デジタル行政プラットフォーム「Graffer Platform」で、AI自動音声案内やオンライン申請といった行政のフロント業務DXをサポートするGovtechスタートアップだ。
オンラインとオフラインで、申請処理などのバックオフィス業務を支援するHybrid-BPO™サービスを展開していたTOPPANホールディングスは、グラファーとの協業によりバリューチェーンを補完できると考え、投資を実行。行政のフロント業務とバックオフィス業務の双方に対応した、包括的なDX支援サービスの提供体制を整え、自治体への提案を開始したという。高橋氏は、「互いに取り組みたいが取り組めない領域を、うまくカバーし合えた」と述べ、渡邊氏も「おもしろい事例だ」と同意した。
最後に渡邊氏は、「GoogleにおけるAndroidやYouTube、FacebookにおけるInstagramなど、世の中を変えた事業の中には、CVC活動が発端になっているものも多い」と指摘。日本でも、ソフトバンクがNVIDIAに投資して連携を強化したことなどを鑑みれば、CVC活動をきっかけに事業を創出し、成長させていける可能性があるという。
アセットはあるものの、イノベーションを起こす人材がいないという大企業にとっては、スタートアップ投資を通じた協業でアイデアや技術、スピードを補うのが、事業開発の新たなスタンダードとなりつつある。渡邊氏は、その営みがスタートアップのエコシステムを変える原動力になると強調し、「CVCの民主化が、日本経済の成長につながるはずだ」と締め括った。