CVCを設立の契機は、スタートアップの「事業を作る力」への期待
「日本のスタートアップ投資において、CVCと事業会社の存在感が増している」。セッションの冒頭、約20社近い上場企業のCVC支援を行ってきたソーシング・ブラザーズの渡邊祥太郎氏は、このように切り出した。渡邊氏によれば、2023年度のスタートアップ投資件数は、VCが434社であるのに対し、CVCと事業会社が974件と、約2倍近い実績を上げているという。では、なぜCVCや事業会社はスタートアップ投資に力を入れるのか。
渡邊氏の問いに最初に答えたのは、NTTドコモ・ベンチャーズの今井康貴氏だ。NTTドコモに入社後、PRプランナーとして対外発信戦略の立案と実行を担ってきた今井氏は、2023年にNTTドコモ・ベンチャーズに参画。現在は、「PR活動ができるキャピタリスト」として、投資活動と投資先の広報支援を並行して行っている。
今井氏曰く、NTTドコモ・ベンチャーズは「日本の老舗CVCの一つ」だ。2008年の設立以来、16年間にわたって活発な投資活動を継続。合わせて7つのファンドを組成し、累計運用金額は1,050億円に上る。
各ファンドは「ドコモ・イノベーションファンド(DI)」と「NTTインベストメント・パートナーズファンド(NIP)」の2種類に分かれており、前者はドコモの将来的な注力事業とのコラボレーションを目的として金融決済やマーケティング、エンターテインメント領域などをターゲットとしているのに対し、後者はNTTグループの研究機能との相乗効果を見据え、生成AIや量子コンピューティング、核融合、宇宙といったディープテック領域への投資に注力している。つまり、NTTドコモ・ベンチャーズは、ドコモのみならず、NTTグループ全体の投資活動を担うCVCだといえる。
このように長年、投資活動を行ってきたNTTドコモ・ベンチャーズだが、そもそも設立に至ったのは「世の中に新しい価値を提供するには、スタートアップの力が不可欠だ」と実感したことがきっかけだったと、今井氏は語る。NTTグループは、顧客基盤や営業チャネル、人的リソースを潤沢に有しており、サービスやプロダクトを社会に広める力は強い一方で、事業創出が得意とはいえなかった。そこで、スタートアップ投資により、スタートアップの「事業構想力」を自社の「社会実装力」にかけ合わせ、革新的な価値を社会に届けられる体制を構築しようとしたのだという。
今井氏の発言を受け、「当社も、スタートアップのソリューションを生み出す力に期待した」と同意を示したのは、TOPPANホールディングスの高橋琢朗氏だ。高橋氏は、入社後からCVC部門でスタートアップとの資本業務提携に携わり、2022年以降は事業共創を強化すべく、一部事業部門も兼務している。
高橋氏によると、TOPPANホールディングスにとっては、祖業である印刷業のコモディティ化が契機となった。いちはやくソリューション事業への転換を図る中でスタートアップの力を借りながら共に事業を作る「共創」を検討することになったという。
TOPPANホールディングスが投資活動を開始したのは2016年で、現在までの投資先は累計約70社に上る。最大の特徴は、BSからの直接投資ながらも、予算と決裁権限を経営会議からホールディングス執行役員が議長を務める投資委員会に委譲し、投資スピードを担保していること。2022年からは、海外投資用にプライベートファンドも組成している。
これらの回答を踏まえ、渡邊氏は両社を「日本のCVCの草分け」と形容。さらに登壇者の2人とも、VCなどを経ずに事業会社でキャピタリストのキャリアを歩み始めているため、今回のセッションがCVCのあり方や特徴を考える上で大いに参考になるはずだと強調した。