SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

Biz/Zineセミナーレポート

アサヒグループHD谷村氏と語る、人材戦略と価値創出の連動──「可視と不可視」の統合による人的資本経営

登壇者:アサヒグループホールディングス株式会社 谷村圭造氏、一般社団法人日本CHRO協会 日置圭介氏

  • Facebook
  • X
  • Pocket

「定量的なデータ」と「定性的な価値」のどちらに注目すべきか

 セッションの2つ目のアジェンダは「人材戦略と価値創出の連動」。人材戦略が「戦略」である以上、理念だけではなく、具体的な成果とも連動していなければいけない。では、人材戦略を価値創出につなげるためには、どのような取り組みが求められるのだろうか。

 この問いに対して、谷村氏はアサヒグループの3つの人材戦略「ありたい企業風土の醸成」「継続的な経営者人材の育成」「必要となるケイパビリティの獲得」の位置付けを説明した。

ピープルステートメント
再掲/クリックすると拡大します

 この3つの人材戦略のポイントは「時間軸」にある。1つ目の「ありたい企業風土の醸成」は企業風土の醸成という遠大な目標にコミットするものであり、戦略の時間軸としても長期を想定している。次に、2つ目の「継続的な経営者人材の育成」は、将来の経営者を育成する長期的な戦略である一方、今まさに社内で活躍する人材を登用し育成するといった短期的な取り組みも含まれている。そして、3つ目の「必要となるケイパビリティの獲得」は、今まさに求められている人材の獲得を目指す戦略であり、時間軸としては短期的だ。このように、アサヒグループでは、長期、長期と短期、短期と、時間軸の異なる戦略を同時並行で実行し、それぞれを連動させることで人材戦略を価値創出につなげている。

 一方で、モデレーターの栗原が日置氏に、人材戦略と価値創出の連動のポイントについて尋ねると、日置氏は「すべての企業に当てはまるような、特定の明確な答えはないと考えたほうがよいと思います」と答えた。

「もし、お決まりの答えが存在するのだとしたら、谷村さんのような方が日夜世界中を飛び回って、タウンホールミーティングや1on1で理念の浸透を図るといった地道な活動をする必要はありません。企業における価値創出とは、戦略に基づいた日々の議論や意思決定の集積によって創出されるのだと思います。

 つまり、従業員一人ひとりの行動を変え、意思決定のクセを変え、そして組織文化や企業風土を変えなければ、戦略的に価値を生み出すことは難しいでしょう。その点で、異なる時間軸の人材戦略を連動させながら、継続的かつ辛抱強く戦略を実行しているアサヒグループは、まさに人材戦略と価値創出の連動の模範だといえるのではないでしょうか」(日置氏)

 最後に、モデレーターの栗原が本セッションの直前に行われたオープニングトークで挙がった話題に触れ、登壇者に意見を求めた。その話題とは、人的資本開示における「可視なもの」と「不可視なもの」の関係についてだ。

 本イベントでは、2つのオープニングトークが開催されている。

 1つ目が独立研究者の山口周氏による「人的資本開示はHR界のマネーボールか」。同講演で山口氏は人的資本開示の社会的要請が高まるなかで、企業が能動的に社内の情報を収集・データ化し、開示することの重要性を説いた。

 一方で、2つ目のオープニングトークでは、埼玉大学経済経営系大学院准教授の宇田川元一氏が、企業変革の源泉は数値化できない価値にあり、それに注目することが大切だと訴えた。

 この一見相反する話題について、栗原は登壇者の両者にコメントを求めた。これに対して、谷村氏は「その2つを統合することが、実務では重要なのではないでしょうか」と回答。社内外に戦略の成果や進捗、企業価値の向上について説明するためには、定量的なデータが必要不可欠だ。しかし、その一方で、企業活動に数値化できない要素が存在することも確かであるため、データを示すなどして一定程度の根拠を確保した上で、定性的な価値について語るべきだとした。

「いずれにせよ、人的資本開示はデータを示すことが目的ではなく、何が自社にとっての企業価値なのかを社内外に説明することが目的です。それが実践できていれば、数値化できない価値の意味もより伝わりやすいのではないでしょうか。ただし、その両者を統合した取り組みには、非常に手間や時間がかかりますから、経営陣を中心に、粘り強く、一貫性を持って実践していくことが重要だと思います」(谷村氏)

 この谷村氏のコメントに日置氏も賛同。定量的なデータと定性的な価値を、同時に確かめながら相互補完的に活用していくことが大切だと話し、登壇を終えた。

「アサヒグループのようなグローバルに事業活動を展開している企業は、データによる可視化がなければ経営が成り立ちません。これは人に関するもののみならず、金やリスクについても同様で、あるかないかで経営の見晴らしが全く異なります。その意味で、多くのものごとをデータとして捕捉することは重要でしょう。しかし、その一方で、データが経営のすべてではないことも確かです。だからこそ、海外の現場に直接足を運ぶなどのアナログな活動が必要になってきます。この両者を同時に、かつ柔軟に役割分担しながら実践していくのが、人的資本経営時代に求められる経営なのではないでしょうか」(日置氏)

Biz/Zine Day

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
Biz/Zineセミナーレポート連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X
  • Pocket

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング