帝国データバンクは、企業概要データベース「COSMOS2」(約148万社収録)などを用いて、2024年の国内IPO市場の動向と特徴について集計・分析した。
IPO社数は前年から減少、3年連続で100社を下回る
2024年に新規株式公開(IPO)した企業(以下、2024年IPO企業)は86社だった。前年の96社から10社減少し、3年連続で100社を下回った。規模の面では、初値で換算した時価総額が1000億円超の大型IPOは、前年から横ばいの6社だった。中でも、東京地下鉄(東証プライム)は約9500億円と、2018年に上場したソフトバンク以来の大型上場となった。
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86社のうち初値が公開価格を上回ったのは63社で、全体に占める企業の割合は73.3%となり、前年(69.8%)より3.5ポイント上昇した。なお、初値騰落率がトップとなったのは、高卒採用支援サービスなどを提供するジンジブ(東証グロース)だった。また、赤字上場企業(上場直前期の当期純利益が赤字)の割合は全体の24.4%(21社)となり、前年(21.9%)から2.5ポイント上昇した。
市場別に見ると、高い成長可能性が期待される「東証グロース」(64社)が全体の74.4%を占め、前年(68.8%)より5.6ポイント上昇。他方、「東証スタンダード」は前年より8.9ポイント低い15.1%となった。
なお、近年のIPOの数は、新型コロナを背景に世界的な金融緩和が行われた2021年の125社を除き、80〜90社台で推移しており、ピーク時である2000年の204社を大幅に下回っている。当時は、上場基準が既存市場と比べて緩い東証マザーズ(1999年)や、大証ナスダック市場(2000年)の開設に加え、いわゆるITバブルの時期であったことなどを背景に、資金が潤沢ではないITベンチャーなど新興企業の上場が増加したという。また、ネット証券の普及による個人投資家の増加も相まって、IPO市場は活況が続いた。しかしその後、新興企業の粉飾決算が相次いで報告されたほか、リーマン・ショックの影響もあり、規制強化の動きや株式市場の低迷などでIPO社数が大幅に減少する結果になったという。
2009年を底にIPO社数は増えてきたが、資金調達方法の多様化のほか、新興市場における信頼性の向上が求められるようになり、より大きな規模でIPOを進める流れが強まったことで上場までの準備期間が長期化し、IPO社数は以前の水準と比べて少ない結果となった。
業種別、テック企業が引き続きけん引 AIやDXに加え、人材関連サービスが目立つ
業界別の構成比では、「情報サービス」を含む「サービス」が65.1%(前年比1.6ポイント減)で突出して高く、「金融」が16.3%(同1.7ポイント増)、「製造」が5.8%(同5.7ポイント減)と続いた。
さらに細かく業種別に見ると、「パッケージソフトウェア」や「ソフト受託開発」を含む「情報サービス」が全体の18.6%(16社)でトップとなった。製造業向けAIソリューションを提供するVRAIN Solution(東証グロース)や、大手企業向けDX内製支援サービスなどを手がける情報戦略テクノロジー(東証グロース)が含まれる。
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次いで、「金融」が16.3%(14社)と続いた。2024年IPO企業で初値ベースの時価総額が2番目に大きかった半導体メモリ大手のキオクシアホールディングス(東証プライム)など、持ち株会社が含まれる「その他の投資業」に属している企業が13社、「その他の貸金業」が1社だった。
また、「その他サービス」は14.0%(12社)で、特にスポットワーク仲介の草分け的存在として知名度の高まった大型IPOのタイミー(東証グロース)の上場は注目を集めた。「専門サービス」は11.6%(10社)で、医療法人の経営支援などを行うユカリア(東証グロース)といった「経営コンサルタント」などが含まれている。
総じて、AIやDXソリューションを含むデジタル、およびITテクノロジーを活用するいわゆる「テック企業」の新規上場が、引き続き全体をけん引した。また、深刻な人手不足や働き方の多様化を背景に人材関連サービスも目立っていた。
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社長平均年齢は全体より若い50代前半の傾向が続く
2024年IPO企業の社長の平均年齢は、前年から0.8歳低下し「50.8歳」となった。全企業の社長平均年齢を10歳近く下回る水準で推移している。年代別に見ると、「50代」が最も多く、全体の4割を占めた。
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スタートアップ企業は4割と前年から低下
2024年IPO企業86社のうち、スタートアップ企業は35社と、全体の40.7%を占めた。スタートアップ企業の「出口戦略」(イグジット、EXIT)の手法としてIPOが代表的と言われているが、その割合は前年(62.5%)から21.8ポイント低下する結果となった。その背景に、スタートアップ企業が多く上場する東証グロース市場の継続的な低迷などによるIPOの延期が考えられるとしている。
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タイミー(東証グロース)は大きな話題を呼んだという。革新的なビジネスモデルに加えて、2024年IPO企業代表のうち、最も若い小川嶺氏は20代ながら借り入れを含む累計調達額が約403億円に達した。
Terra Drone(東証グロース)は2024年「ドローンサービス企業 世界ランキング」で1位を獲得するなど、大きな実績を残した。また、Synspective(東証グロース)や、大型IPOのアストロスケールホールディングス(東証グロース)など、宇宙系スタートアップも注目を集めたという。
また、IoTプラットフォーム「SORACOM」を提供するソラコム(東証グロース)および、「クラシル」などスマートフォンアプリを運営するdely(東証グロース)は、大企業の傘下に一旦入り、成長してから上場する「スイングバイIPO」を果たした。
「3年後に売上高が1.5倍以上」となる可能性が高い企業割合が全企業の約8倍に
帝国データバンクが保有する信用調査報告書(CCR)の情報をもとに、「その企業の売上高が、3年後に1.5倍以上になるか否か」を予測する成長性予測モデル「SP」を用いて、IPO企業の成長性を分析した。
その結果、分析が可能な全24万社と比較して、IPO企業では高いポテンシャルが数値として現れる結果となったとしている。2024年12月時点において、3年後に売上高が1.5倍以上になる可能性が最も高い「SPレベル10」の割合は、全企業では7.1%だったのに対して、2024年IPO企業群では56.4%と全企業の約8倍に上昇。IPOする3年前である2021年以降、各時点のいずれも同様の結果が見られている。
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