ガートナージャパン(以下、Gartner)は、生成AIが、企業のIT組織業務やITベンダーとの関係性を大きく変容させるとの見解を発表した。
IT組織が自らの存在目的を再定義し、内製するIT業務を必要最小限に絞る可能性
近年のDX推進は、IT組織を取り巻く環境に大きな変化をもたらしたという。データ・サイエンスやAIアーキテクチャなどの、従来のIT組織にとって未知のスキルが要求される業務が増えている一方で、クラウド・サービスや生成AI、ローコード開発ツールなどの活用により省力化・効率化できるIT業務範囲も拡大。さらに、DX専門組織の分離設立やエンドユーザーである事業部門が自らITシステム導入を行うなど、社内における組織的な多様化と拡散が始まっているという。
Gartnerは、2028年までに、日本企業のIT組織の40%が内製業務の「ミニマリズム(最小限主義)」を志向すると将来想定し得る1つのシナリオを立てていると述べる。意思決定機能と管理機能の一部など、主体性が必要な業務の内製は必要だが、それ以外の業務は、ITベンダーへのアウトソーシングのほか、クラウド・サービスの導入による開発/運用保守業務の負荷の軽減、生成AIやそれを組み込んだAIエージェントの活用による業務の省人化、さらに事業部門のIT担当者への業務移行などの動きが進む可能性が考えられるとのことだ。
ユーザー企業の期待と生成AIサービスの成果物のミスマッチが拡大する
生成AIやAIエージェントが社内のさまざまな業務を代替できるようになることで、企業のリソース不足が改善されると期待できるという。ただし多くの企業では、生成AIの業務への適用を自社だけで完結することは難しく、ITベンダーへアウトソースすることでノウハウの不足を補っているとしている。一方で、そのITベンダーでさえも増大する顧客の需要に十分に対応できていない状況がうかがえるとのことだ。
生成AIをビジネスで活用する際に、国内企業は通常、アウトソーサーから何らかの支援を受けるという。特にビジネス・ノウハウに長けたコンサルティング・ベンダーへの期待が大きく、こうした需要を商機と見る多くのコンサルティング・ベンダーが、生成AIのライフサイクル全般にわたるサービスを展開している。
しかし、実際にサービスを受けた企業の大半はその効果を期待以下と評価していることが、Gartnerとのやり取りの中で明らかになったという。効果的な学習や精度向上には高度なテクノロジーを要するものの、ビジネス・ノウハウと比べ、テクノロジー・ノウハウが発展途上のコンサルティング・ベンダーは依然多いとGartnerでは見ているとのことだ。2028年まで、生成AI関連のコンサルティング・サービス契約の70%が顧客の期待と成果物のミスマッチを解消できないと同社は述べている。
AI/生成AIはベンダー評価にも使用されるようになる
一方、Gartnerは、2028年までに、ITベンダー評価を行う企業の半数が信頼性向上のために、ベンダーの活動をAI分析する取り組みを始めるとの仮説も立てているという。
現在、多くの国内企業が定期的に取引先ベンダーの評価をしているが、取引先ベンダーの振る舞いや知見に関する評価では、ベンダーと対峙するIT担当者へのアンケートによる定性的な評価にとどまることが多く、客観性に乏しく信頼性に不安があるとしている。
こうした課題を解決するため、生成AI機能の活用に期待が寄せられているという。たとえばベンダーとの議事録、メールやチャットといった日々の活動データを多角的に分析し、彼らの課題点をAIに提案させることで、ベンダー評価の精度が大きく高まる可能性があるとのことだ。
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